その9
題字 書家・新舟律子

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46.全国のユリノキの母樹。御苑のシンボルツリー、ユリノキ

広い御苑でひと際目立つ、3本立ちのユリノキ。木陰にベンチが・・・

名 称 新宿御苑のユリノキ 樹種 モクレン科
ユリノキ属
樹齢&
大きさ
目通り幹周り4.5m 樹高34m 樹齢134年
所在地 東京都新宿区内藤町11 新宿御苑
行き方 JR中央線「千駄ヶ谷駅」下車、新宿御苑千駄ヶ谷門へ徒歩4分

明治9年(1876年)に海外から輸入し植えられた上のユリノキの根元

この木の花です。2010.5.21撮影

生い立ち&
見どころ
 ユリノキほどいろんな別名がある木も珍しい。花がユリ(百合)の花のような木で「ユリノキ」が学名ですが、やはり別名に花がチューリップに似ているから「チューリップ・ツリー」、葉の形が半纏(上着)に似ていることから「ハンテンボク」、葉が奴凧に似ていて「ヤッコダコノキ」、さらに葉の形を軍配に形容し「グンバイノキ」と、5通りもの名前で呼ばれています。

 新宿御苑の西門にあるインフォメーションセンターではいま、御苑の歴史を江戸時代から現代までの変遷をパネルで展示し公開中です。これを見ると、御苑のルーツが分かるだけでなく変転に次ぐ変転、まさに日本史そのもの、とても興味深い。
 東京大学農学部と東京農工大農学部も新宿御苑内に開校した農事修学場(のち農学校)の前身であったとは・・・。また、青森リンゴや小豆島のオリーブなども御苑が研究開発し地方に普及させた特産品であることも初めて知りました。

 徳川家康が江戸城にに入った翌年天正19年(1591年)、家康は家臣の内藤清成に江戸城西門警備役を任命し現新宿に屋敷を拝領しました。その後、内藤氏の長年の功績を認め、馬を走らせて回れるだけの広さ、東は四谷、西は代々木、南は千駄ヶ谷、北は大久保に及ぶ土地を与え、地名を「内藤町」と命名しました。
 時は移り、明治維新・・・。明治政府はこの広大な16ヘクタールの土地を大蔵省に買い上げさせ、牧畜・園芸の改良を目的とした「内藤新宿試験場」にしました。ここで「広く内外の植物を集めてその効用、栽培の適否などを研究し、良種子を輸入、それを生育してその種子を各府県に別けて試験させ、民間にも与える」国家規模での農業技術の研究開発が行われました。

 ここに紹介するユリノキ、以後登場するモミジバスズカケノキ(プラタナス)、ラクウショウ(落羽松)、ヒマラヤシーダー、タイサンボク(泰山木)などは、この明治時代に内藤新宿試験場が種子を輸入し育成したものです。そしてその種子を各府県に分け与え、全国に普及したもので、それらは全国の母なる木“母樹”です。
 ※このユリノキは木花−worldの20ページNO.19にも掲載。   
撮影・文 岩田忠利 撮影日 2010年8月17日



47.御苑で一番人気。気根が筍のように生えるラクウショウ

根元の周囲に気根と呼ばれる呼吸根がタケノコのようにニョキニョキと・・・

名 称 新宿御苑の
ラクウショウ
   (落羽松)
樹種 スギ科ヌマスギ属
樹齢&
大きさ
目通り幹周り4.4m 樹高35m 樹齢130年以上
所在地 東京都新宿区内藤町11 新宿御苑
行き方 JR中央線「千駄ヶ谷駅」下車、新宿御苑千駄ヶ谷門へ徒歩4分

ラクウショウの大木が生える「母と子の森」

春の新緑も良いが、紅葉も楽しみ
2010.05.21撮影
生い立ち&
見どころ
 新宿御苑の新宿門を入って右手に100メートルほど進むと、大木を前にしてスケッチする人やカメラを向ける人たちがいます。お目当てはラクウショウ(落羽松)。原産地を北アメリカ東南部からメキシコの湿地や沼地に生える木で和名は“松”ですが、スギ科。別名を「ヌマスギ」とも言います。
 
 新宿御苑でも小川が流れる湿地に生え、根が呼吸するために根元から気根が地上にタケノコのように何本も伸びています。こうした光景は日本では珍しく、ラクウショウの周りにはいつも多くの観察者が集まるのです。目黒線武蔵小山駅の先、林試の森公園でもラクウショウがありますが、樹齢の差なのか、気根を見ることがありませんでした。
 この木のもう一つの特徴は、側枝に羽根状に生えた葉が秋にその枝ごと落葉することです。これが和名「落羽松」の由来。

 新宿御苑ではこの木の種子を明治初期に輸入したそうで樹高が35メートルもある大木に生長、森の中で根元からの全容を撮ることができないのが残念です。
  
 ※このラクウショウは木花−worldの20ページNO.20にも掲載。   
撮影・文 岩田忠利 撮影日 2010年8月17日



48. 御苑のプラタナスは、全国の母樹

剪定せず、自然のままに生長した幹は御苑の主の貫禄充分太さ6.6メートル

名 称 新宿御苑の
モミジバスズカケノキ
   (プラタナス)
樹種 スズカケノキ科
スズカケノキ属
樹齢&
大きさ
巨木:目通り幹周り6.6m 樹高11.5m 樹齢100年
所在地 東京都新宿区内藤町11 新宿御苑
行き方 JR中央線「千駄ヶ谷駅」下車、新宿御苑千駄ヶ谷門へ徒歩4分

上の木と同い年の木。同時期に植えた約160本のプラタナス並木。剪定後の枝を挿し木した苗木が全国のプラタナスとなっています

御苑には上の並木と同い年のプラタナスが約250本も植えられています

生い立ち&
見どころ
 モミジバスズカケノキ(紅葉葉鈴懸の木)はスズカケノキとアメリカスズカケノキの交配種。別名「プラタナス」のほうが私たちには馴染み深く、ピンときます。
 新宿御苑では明治30年ころ、イギリスから種子を輸入し栽培したものです。新宿門を入って右に20メートルほど行くと、上の巨木が出迎え、その姿かたちの威力に圧倒されます。
 
 この木と同い年の木が、大木戸門そばのフランス式整形庭園内、プラタナス並木の160本がそれです。左上の写真と左下の写真を見比べてください。6.6メートルの太さと1メートル足らずの太さの差です。これが同じ樹齢100年の樹木とは、信じられません。同じ100年という歴史ある樹木なのに、これほど生長の差が出るのはなぜでしょうか? 

 それは、自然のままに伸び伸び育った木と、毎年冬場に1〜2メートルずつ伸びた枝を剪定され整形され、生長を阻止されてしまっている差なのです。しかし、プラタナス並木の木々は剪定後の枝が挿し木にされ苗木となり、日本各地の街路樹や公園樹として活用されています。これはまさに身を削って子孫を増やし社会貢献している生き方の違いでもあります。
  
 ※このモミジバスズカケノキ(プラタナス)は木花−worldの20ページNO.21にも掲載。   
撮影・文 岩田忠利 撮影日 2010年8月17日



49. 自然のまま生長した端正な樹形、ヒマラヤスギ

新婦のウエディングドレスを連想させる下枝です

名 称 新宿御苑の
ヒマラヤスギ
樹種 マツ科
ヒマラヤスギ属
樹齢&
大きさ
 樹高20.5m 樹齢約130年
所在地 東京都新宿区内藤町11 新宿御苑
行き方 JR中央線「千駄ヶ谷駅」下車、新宿御苑千駄ヶ谷門へ徒歩4分

幹は上にまっすぐ伸び、四方に伸びた枝を支えています

生い立ち&
見どころ
 ヒマラヤスギは、ヒマラヤ西部のインド北部からネパール・パキスタン・アフガニスタンに自生する樹木でスギ科ではなく、マツ科です。
 新宿御苑には剪定など人間の手を一切加えていない美しい樹形のヒマラヤスギが随所に植わっています。枝が水平から下向きに広がり、下枝を地面スレスレに伸ばしている様は新婦のウエディングドレスのように美しい。
 
 御苑にこれほどヒマラヤスギが多いのにはそれなりの“ワケ”があります。明治時代初期、横浜の外国人居留地に住んでいた英国人ヘンリー・ブルックは、明治12年(1879年)インドのカルカッタから種子を輸入し居留地をイギリス風の景観にと横浜・山手居留地一帯に植えました。それがヒマラヤスギ渡来の日本事始めです。その後、余った種を横浜植木という会社が苗木に育て、皇居へ30本献上、新宿御苑が100本を買い上げました。それから約130年、今日の御苑のヒマラヤスギに生長したのです。
 また、外国人居留地だった現在の中区の県庁・横浜公園・大通り・山手公園など随所に見事なヒマラヤスギが現存しているナゾがこれで解けました。戦前の横浜市民はこの木を「ブルーク松」と呼んで親しみ、大事にしてきました。

 同じ明治12年にアメリカ第18代将軍グラントが国賓として来日、参詣した芝増上寺で記念植樹したのが表示板「グランドマツ」の名とともに現存しています。しかし、枝ぶりからみて、どうもマツではなくヒマラヤスギのようですが、戦前の横浜市民同様に昔の人たちはマツ科のヒマラヤスギを「マツ」と呼んでいたようです。
 マツ科の樹木なのに、「ヒマラヤスギ」なんてスギ科の名前をつけたり、逆にラクウショウ(落羽松)はスギ科なのに「マツ」の名前を付けたり、紛らわしい限りです。こうした樹木名を次代の子どもちにどのように教え、覚えさせたらいいのでしょう?
 どなたが樹木名を付けるのかは知りませんが、もっと明解な命名をしてもらいたいものです。どうですか、皆さん?
 
※御苑のヒマラヤスギ
が木花−worldの20ページNO.22にも掲載。   
撮影・文 岩田忠利 撮影日 2010年8月17日

50. 福島県二本松市の天然記念物、霞城の傘松

地元では「八千代の松」と呼ばれ市民に親しまれているアカマツの名木です

名 称 福島県二本松市指定天然記念物
城の傘松
樹種 マツ科
マツ属赤松
樹齢&
大きさ
 目通り幹周り3.9m 樹高約4.5m 樹齢約300年
所在地 福島県二本松市郭内3-232
行き方 JR大宮駅から郡山駅まで東北新幹線、同駅からJR東北本線・福島行きに乗り換え、5駅先の二本松駅下車
生い立ち&
見どころ
 4年前の春、福島県二本松市の霞ケ城公園に4500本の桜が咲き誇るという話を耳にし、花見に出かけました。そのとき、傘のような独特の形をした由緒ありそうな大きな松の木と出合い、カメラに収めてきました。

 赤松は公害に弱く、短命だということですが、この赤松は公園内の霞ケ城址の中腹、丹羽神社下の広場に立っています。ここにもう300年も・・・。地上1.6メートルほどの高さから枝を三方に伸ばし、東西約14メートルに傘を広げています。木の勢いもよく、いたって元気です。 

 4年前に何気なく撮った霞ケ城の傘松が、思いがけずこのような輝かしい場に登場させていただけるとは、当の傘松もさぞ喜んでいることでしょう。   
撮影・文 堤 英 撮影日 2006.04.29


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