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大岡昇平著の渋谷が舞台の「少年」。それを取り上げた「作品まち人」の一部誌面 |
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文豪・大岡昇平邸を飛び込み訪問
連載「作品まち人」は、東横沿線地域が小説の舞台となった作品を紹介するものだった。その原稿の締め切りが迫っていたこともあって、誌面担当の主婦のUさんと二人で電話もかけず、作家・大岡昇平先生の自宅に飛び込みで訪ねることになった。一面識もない先生、しかも、時のノーベル文学賞候補にも挙がった文豪、大岡昇平先生。突然の訪問は失礼なこととは承知で車を走らせた。
ご本人が紅茶にケーキで歓待
地図を頼りに豪邸が並ぶ世田谷・成城を探す。と、大きな表札「大岡」が見つかった。インターホンを押すと、お手伝いさんらしき女性の声が・・・。やがて白亜の母屋の玄関が開き、広い芝生の庭を歩いて来る白髪の紳士が門のほうへ。
その初老の方が「大岡です。どうぞ、どうぞ、お入りください!」。門のかんぬきを外し、応接間へ招じ入れてくださった。しかも、不意の失礼な客に紅茶にケーキでもてなし、渋谷・東急百貨店本店近くで育った少年時代を懐かしそうに事細かにお話くださった。
帰路のUさんと私は、門前払いを覚悟して訪ねたのに、文豪の先生の取材ができたうえ、歓待されたことに感激したのだった。
現地取材中に警官に連行される
その翌日、Uさんは喜び勇んでカメラを手に渋谷に飛び、大岡先生が少年期を過ごした現地取材で撮影していた。その一枚目のショットは交差点にある交番を前面に東急百貨店本店のビル
をバックにシャッターを切った。
と、そのときだった。交番から警官が飛び出してきて、主婦のUさんの手をむんずと掴み、有無も言わせず、交番の中へ連行。それは交番を無許可で撮影した業務妨害の罪とか。「なぜ交番なんかを撮影したのか?」と、さんざん油を絞られ、本誌連載誌面の取材であることを何度も説明、ようやく無罪放免・・・。
1970年に京浜安保共闘のメンバーが板橋区の志村署上赤塚交番を武器強奪の目的で襲撃した事件があった。その後、警察署、交番、独身寮など警察関係を狙う爆破テロ事件が繰り返され、挙句の果て、武器を入手した京浜安保共闘と赤軍派が統合した「連合赤軍」の“浅間山荘事件”と“よど号乗っ取り事件”へと結びついたのだった。そのため、警察は長い間、都内・横浜・川崎の京浜地区の警察関係の取材には神経を尖らせていたのだった。 どうやら、Uさんの撮影も一味の下調べかと勘違いされたようだった。
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