
昭和39年5月、向坂

写真上の現在の向坂
道は2倍以上広がり、直線になり、なだらかな勾配に変わりました。
2013.7.14 撮影:石川佐智子さん(日吉)
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坂の下に“押っぺし”
左の「向坂(むこうざか)は、東京を往復する近隣の農家の人たちには忘れられない坂です。往きは荷台に採りたて野菜を積み、帰りは肥え桶を並べた荷車を引いてこの坂を通過するのですが、それがたいへん難儀でした。
東京の入り口、現大田区までの道中には向坂、道中坂、その先に千年の坂、丸子の渡しを渡るとすぐ桜坂、またその先に洗足池の前後、石川台と長原に大きな二つの坂‥…・。起伏のある中原街道にはこうしたいくつもの難所が待ち構えています。まして雨や雪の日、霜解けの泥んこ道を抜けるのは並大抵なことではありません。
坂の手前に「おっぺし」という大人や子供が、よくたむろしていました。農家の主人たちは彼らに荷車の後押しをしてもらい、ようやく坂の上に出る。そこで、幾ばくかのサービス料を支払うのです。トラック輸送時代の現代、こんな“珍商売”は想像もできません。
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