編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏
NO.537 2015.03.28 掲載
樹木 駅名の由来@    
    
花と要塞の函館山A

  文・写真:坂上武史(札幌市中央区在住)  

         函館山、半日ハイキング

出張先の函館でちょっとした時間ができましたので函館山に登ってきました。

  以前(NO.204 札幌便りG)にも書いたように東京タワーより1mだけ高い334mの市街地に面した山で、とてもお手頃です。朝起きると大晴天、仕事場に顔を出すのを午後にして、昼頃までの半日行程でハイキングを楽しむことにしました。
  雪融けがかなり進み、少なからず野花が咲いていることを期待して、日当たりの良いコースをゆっくりと歩くことにします。函館山の夜景観光でよく使われているロープウェイのある斜面に付けられたコースを往復するのがベストと考えて、コンビニで弁当と飲み物を買って函館山を目指しました。



市街地と目と鼻の先


ロープウェイの下をくぐりながら登る

登り口の「函館山ふれあいセンター」に立ち寄ってリーフレットをもらい、さあ行くか、と気合を入れたそばから足元にフクジュソウが花を咲かせていました。中にはもう終わりそうなものもあり、ここ函館においても例年より春の早さが感じられます。


       雪解け直後の旧登山道

  旧登山道という昔ながらの石垣がある道を進みます。あと一月もすればこの石垣には色々な種類のスミレが咲きます。以前よく登っていた頃に記憶した自分なりの植生マップが蘇ってきます。
 函館山は山野草がとても多いのですが、雪解け直後の今は昨秋の松ボックリやドングリが褥を覆っています。木々も冬と変わらぬままで、唯一カシワの木が葉をつけているのですが如何せん枯葉なので、冬枯れた光景であることに変わりはありません。
  でも陽射しが日に日に温もりを帯びてきているのが、少しずつ柔らかくなってきた空気感で伝わってきます。
  中腹まで登ってきて、より陽だまりがある薬師山という小ピークへの小道を選ぶことにしました。冬枯れた林に燦々と春の陽射しが降り注いでいます。特に冬が嫌いなわけではありませんが、なんとも言えない嬉しさに似た感情を覚えます。
 ロープウェイの下をくぐると黄色い花々がたくさん咲いていました。麓でも見たフクジュソウです。花開いたばかりでしょうか、先のものより瑞々しい黄金色の花びらを一斉に太陽に向けています。可能な限り花を開き、僅かな陽光を漏らしまいとする直向きな姿は、小さいながら力強さと清純さを感じずにはいられません。



フクジュソウ


(北海道では)「先んず咲く」マンサクとも言う


        薬師山砲台跡に到着

  歩みを進めて行くとカタクリの葉を見つけました。あと一月もすれば可愛らしいピンク色の花でスプリング・エフェメラルを演じることでしょう。
 踏まないように脇を通り抜け、函館山が要塞だった時の薬師山砲台跡に着きました。山肌を深く削って作られた構造物です。倒壊が進んでいるものの整然と重ねられたレンガに、当時の軍の統制力を感じずにはいられません。



カタクリの葉 この後が楽しみだ


薬師山砲台跡

 その後、観光バスが上がってくる車道を少し歩くと主稜線に出ます。直ぐに山頂には向かわずに、入江山という別の小ピークに向かいます。
 函館山の裏側(津軽海峡側)にあった昔の寒川集落に降りる道もこの辺りにあります。

軍用道路を下るのですが、今となってはブッシュに覆われ残雪期でなければ相当の体力を消耗するでしょう。そんな道の入口は立入禁止の札が出され基本的には行けないようになっております。両側が落ち込んだ尾根道を歩くと砲台の跡や洞爺丸台風の慰霊碑があり、最後は入江山観測所の跡地で行き止まりになります。


       函館山からの昼間の眺望

  ここからは函館山から西側に伸びる海岸線が綺麗に湾曲しているのがよく見えます。洞爺丸台風の時は惨状と化した海がよく見渡せてしまう場所でもあります。
 大沼公園の駒ケ岳(渡島駒ケ岳)が遠くに純白の冬姿をみせており、気持ちいい景色に昼食を摂ることにしました。麓のコンビニで買った焼鳥弁当です。函館山に登る時は大抵焼鳥弁当を携行しております。ちなみに函館で焼鳥弁当といえば全て豚精が基本です。適度な塩味が汗をかいた後には旨いものです。



入江山観測所跡


鶏肉0%の焼き鳥弁当

少し早めの昼食を終え、来た道を少し戻って山頂に向かいます。夜景もいいのですが、昼景もいいです。というより昼の方が好きです。こんな晴れの日だから結構キレイだろうと最後の登りを登っていくと、ひょんなことから道連れができました。

  神奈川県の相模原から来たという彼は旅行先で山を見つけると登って歩いているんだと言っていました。津軽や下北が霞んで見えないのが残念でしたが、函館市外を俯瞰する景色に満足しているようで、宿泊ホテルの場所や五稜郭、湯の川、空港の位置などを少し解説してあげました。脊梁沿いに立待岬まで行くというので、砲台跡の位置が記されているリーフレットを差し上げると喜んでくれました。



函館山からの昼景



誤食すると命取りのトリカブト



               下山道で出会う人と野草

彼が正当な道に踏み込んで行くのを頂上の高みから確認し下山することにしました。登り降りに一番楽な、旧登山道を降りていきます。途中結構残雪があり長靴が威力を発揮します。このルートは案外日陰が多く、花にはまだ早い感じでした。登りに薬師山へのルートに分岐しておいて正解だったと思います。と言っても春の近さは臨床のブシ(トリカブト)の新芽からも伺えます。フクベラ(ニリンソウ)と酷似しているので、誤食すると生死に関わるため、山菜採りでは細心の注意が必要です。

  まだ雪が残っているというのに、かなりの人たちとすれ違います。中には春を待ちきれずについつい山に登ってしまったというような、ビニール袋を下げた買い物帰りのような人もいます。帰り際に見つけたキクザキイチリンソウも春を先取りしようと花を開きかけていました。花も人も春が嬉しいのですね。



散歩感覚で楽しめる 市民の森



春の幕開け キクザキイチリンソウ


 こうやって山を降りてきたのが正午過ぎ。

さて、そろそろ頭を仕事に切り替えて、埃っぽい市街地を仕事場に向かいました。

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