「川田さん、創刊号の表紙の写真をお願いします」と岩田編集長から拝命され、その責任の重さが一気に私の肩にズーンと…。それから数日間というもの、創刊号にふさわしい被写体とは?それはどこにあるのか? そのことだけで頭の中はいっぱい。
表紙はその号の“顔”、ましてや、本誌『とうよこ沿線』の第1号、創刊号の写真…。
まず私が考えたのは、本誌発行の理念です。つぎに、その理念を象徴する場所とはいったいどこだろうか…。そうだ、理念の「東京・川崎・横浜の3大都市の行政区分の壁を越えて」という場所とその接点は多摩川だ。東横線の電車が多摩川を渡る情景がベストではないか…、そのナゾが解けたような気に。
5月下旬の晴れた日、車で丸子橋を渡って東横線鉄橋の下、田園調布一丁目の多摩堤通りで車を停めました。上り、下りの東横線の電車が10分間隔ほどで頭上を轟音とともに通過する。多摩川、東横線の鉄橋、電車…これらが同時に被写体に入れるには、高い場所に登らなければ撮れません…。
私は多摩堤通り端の六郷用水を跨いで、急斜面のブッシュの中へ。胸を突くような勾配の丘には雑木や篠、雑草が生い茂っています。そこを強引に50bほど登ると、ようやく東横線が通過する鉄橋が木の間に見え隠れする場所に出ました。しかし、電車の姿を撮ろうとしても木の枝が邪魔してアングルに収まらない。
移動に悪戦苦闘の末、わずかな木々の隙間から鉄橋を渡る電車をカメラに収められたのが、この写真でした。
|

川田英明さん |
|
川田英明さんは港北区日吉本町に連綿と400年続く旧家、川田家の長男、41歳。
日大芸術学部写真学科卒業後、17年間羽田空港ビルディング且ハ真部で撮影活動。記念写真、報道写真、スナップ、CM、カレンダー制作など写真のことなら何でもこなしたベテランです。本年7月独立、カワダ・フォトサービスを立ち上げ、その代表。
ユニークなアングルと豊かな感性は、写真家仲間からも高く評価されています。その個性を生かした今後が期待されるカメラマンです。(岩田忠利)
|
|