編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.420 2014.12.17  掲載 


  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”


   掲載記事:昭和55年12月1日発行本誌No.3 号名「柊」
   


  沿線を犬とアヒルの楽園に


 越村 信三郎
  
横浜国大元学長・同大名誉教授・和光大学教授
     (港北区富士塚在住 73歳)


  大学からの帰り道、いつものとおり妙蓮寺駅で東横線を降りて菊名池公園を歩いていると、菊名池の向う岸に、犬が178匹、木の根っこにつないである。と町のほうから質素な洋服の一人のおばさんが、大きい袋をさげて現れた。

 このあたりでは誰でも知ってる「犬のおばさん」だ。
 犬たちはいっせいに声を立てて、食べ物をねだっている。ひととおり肉などを与えたあと、もひとつの袋からパン屑をとりだして、池の魚にバラまいている。






菊名池に現れた“犬のおばさん”

  聞くところによると、この人は、東横沿線その他の町々で拾った捨て犬を飼って、一つ一の犬の名に、「みょうれんじ」とか「たんまち」とかいった駅名をつけているとか。動物愛護をなんのケレン味もなく、長年にわたって実践しているサンタクロースのような、おばさんだ。

 ところが、向う岸の端っこで、小学生らしい、一人の男の子が、池の上を泳いでいる5,6羽のアヒルをめがけて小石を投げつけている。アヒルはそれを避けて池じゅうを右往左往しながら逃げまわっているではないか。道行く人や主婦たちは、それを眺めていながら、だれも止めようとしない。子どもにとっては遊びかもしれないが、アヒルにとっては、死活の問題だ。

 外国では考えられないことである。
 デュッセルドルフの街路に、池からでてきたアヒルの一家が、パパとママを先頭に、小さいひよ子を従えて、お尻をふりふり、クワッ、クワッ、クワッと鳴いて、通りかかるのをみた。

 こ
の一隊が通り終わるまで、自動車もクラクションをならすのをやめ、街の人も歩みをとめて、じっとそれを見守っている。人とアヒルと一体となったホホえましい光景だ。歌になり、詩になる。

 スイスでは、こんな歌もできた。
  
  「フルカ峠の一本道

  フルカ峠の一本道へ

  羊のむれが下りてきた

  霞にのって下りてきた

  走る自動車身うごきとれず

  ヨチヨチ、ヨイコラ、エーホーラ

  フルカ峠の一本道の

  羊の行列いつまでつづく

  ヨチヨチ、ヨイコラ、エーホーラ

 犬を愛するおばさんに暖かいほほえみを送りましょう。すでに獣医の藤井さんは、おばさんの犬たちの予防注射を無料奉仕しておられるとか。

 アヒルに石を投げる子には叱らないで、やさしく話かけましょう。

 とにかく東横沿線を、人間だけでなく、犬にもアヒルにも住み易いパラダイスにしたいもの。この地域でお互いにかけがえのない生命を共にしているのだから。

                             イラスト:大和功一(向河原)

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