編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.412 2014.12.10  掲載

 アタマの固い運転手さん



  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和55年9月30日発行本誌No.2 号名「秋」

 


機転が利かない
東急バスの運転手



                  宮原嘉嗣会社員 38歳 横浜市港北区新吉田町)



 先日綱島駅から新羽営業所行きの東急バスに乗り、発車を待っていたところ、親子連れの客が乗って来て、運賃箱にお金を入れたあとで何やら行き先の間違いに気づいたらしく、
  「すみません。乗りバスを間違ったのですが、料金を返していただけますか」
 と運転手に願い出ていた。
 「もう料金箱に入ったので駄目です」
というその運転手の返事に、私は唖然としてしまった。
 かつて私も、ある地方でバスに乗った際に、この親子連れの方と同様の経験がある。その時の運転手は私に、
 「ちょっと待ってください。あとから乗ってくるお客さんの料金でお返ししますから……」
と機転を利かせてくれた。

  このことを合わせ考えると、東急バスの運転手のナント融通の利かないことか…….と私は腹立たしく思ったのだ。
 この親子連れの人は東横沿線に住んでおられる人かどうか、そこまでは察しがつかないが、いずれにしろ綱島というところで後味の悪い思いをされたことに相違あるまい。

 私のように毎日乗り降りをしている者にとっては、こんな些細なことまで眼に写って仕方がないのである。




イラスト:曽我二郎(渋谷区代々木)



      満員時の降り口

 
またある日、私は保育園に預けている子供を迎えに行っての帰り、子供を抱いてバスに乗ったまではよかったのであるが、この日はあいにくの雨で普段の日より利用者が多く、満員で身動き出来ないほどの状態であった。

 新吉田町まで、運転席のすぐそばに立っていたが、停留所で私は運転手に申し出たところ、
 「運転手さん、降車口まで行けそうにありません。この乗車口から降ろしていただけませんか」
 「規則ですから後から降りてください」
というつれない返事。しかたなく、子供と手荷物を車内に立っている乗客のアチコチにぶつけながら、搔き分け、掻き分け、汗だくで降りた。

 そのくせ、朝のラッシュ時には交通が渋滞していると、平気で停留所でもない地点、綱島駅の手前で乗客を降ろしているのである。別に停留所でもないところで「降ろしてくれ」と頼んだわけではない。
 なんと職務に忠実な運転手であろう! その時の車内の状況を見て、少しは融通を利かせてくれても良いのではあるまいか。


     
郷里のバス会社のサービス

 
話はいささか余談めくけれども、私の郷里は広島。広島は東京周辺や大阪あたりと違って電車による交通網が発達していないので、市民のほとんどがバス路線に頼っている土地柄である。
 同一路線に国鉄・私鉄のバスが5社も6社も出入りしている。首都圏の通勤電車並みのダイヤで、バスは次から次へとやってくるし、そのうえ、全車冷暖房完備である。

 時間帯によっては、車内にラジオによる音楽やニュース番組、それに野球放送も流しているサービスぶり。
 「お客様でご気分の悪くなられた方は、運転手にお申し出ください」と掲示してあるバスは、恐らく広島だけだと私は思っている。

 何やらお国自慢めいた話になってしまったが、回数券が欲しい時に案内所に誰もいないことが多い東急バスである。何かあると「交通が混雑していますから、次のバスは何時になるかわかりません」と逃げる東急バス。

 他社との競争が強いられない独占営業で、その冷たい態度に泣いているのは利用者なのではあるまいか。




  反響


 
 本号発行後、10日ほど経った日、東急バス新羽営業所・所長という方から当編集室に電話があり、来室したい旨でした。

 約束の日時に当の所長と部下、それに本社の東急バスの課長、3人が見え、この記事の件について、一切の言い訳の言葉はなく、ただひたすら非を認め、詫びるのみ。さらに今後、社内の社員教育を徹底し、二度とこのような不親切な対応の無いよう乗客へのサービス向上に努めるとのこと。そして、投稿者の宮原様にご迷惑をかけ、心証を害されたことを詫び、3人は編集室を後にされました。



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