編集支援:阿部匡
投稿:坂上武史(札幌市中央区在住)   編集:岩田忠利    NO.204 2014.9.08 掲載  

画像はクリックし拡大してご覧ください。

樹木 駅名の由来@花と要塞の函館山


 今年の夏はお盆休みもなく働き、ふと気がつくとすでに9月になってしまい、朝晩に半袖では寒い季節になってきました。

 多忙極まるというわけではなかったのですが、毎日のように処理すべき業務が入っていて、まとまった休みを取ってどこかに行くということができませんでした。土日を使って一泊の温泉旅行に行ったくらいが唯一のバカンスと言える内容となってしまいました。


  ホテルでの仕事の合間に函館山へ


 
ビジネスホテルの一室は上司や電話といった様々な外乱に囲まれたいつもの環境に比べると、その閉鎖性からきわめて能率が上がる場所なのでしょう。いつの間にかどっぷり集中して仕事に没頭し、気がつくと昼の1時を過ぎていました。

 午前中の雨が止み、何か食べようと函館に来るとよく行くそば屋で、函館名物のイカ天が入った蕎麦を食べてから、その店を出て函館山を見上げた途端、唐突に登ることを考えてしまいました。

 以前、函館に住んでいた当時、登山を始めたこともあって、よく足慣らしやトレーニングといって登っていた山です。函館山といえば夜景が有名で、頂上から眼下に見下ろす夜景は、香港、ナポリと並んで世界三大夜景に数えられているほどです。足下に迫っている市街地と頂上が近接している割に高度差があるため、夜景に迫力が加わり人気があるのだと思います。といっても、高度差というのは大げさかもしれません。標高は334b、東京タワーより1b高い程度の山なのです。それ故、市街地に近い低山ということで、昼下がりにも気軽に散策が楽しめます。



市街地から函館山を見上げる



登山口にある函館山ふれあいセンター


 函館山ロープウェイ乗り場を脇目に、住宅地の細い道を進んだ所に登山口の一つがあります。ここはいくつかの登山口で一番アクセスしやすく、多くの利用者への情報発信拠点として「函館山ふれあいセンター」が設けられております。

 この日は生憎の休館日でしたが、案内リーフは自由に持って行けるようになっています。一部ずついただいてペットボトルの水を買ってから、いよいよ登りにかかります



 有名な夜景では見られない、昼間の函館山の魅力


 
出張で着ている会社の作業衣スタイルなのでムリをしないよう、登りに苅分の登山道、下りに昔の車道を使う行程を、としました。現在使用されている舗装の車道とクロスしてから、左に行くと苅分の汐見山コースとなります。

 このコースは一気に登ってから、細い尾根伝いに主稜線に出るコースで、秋や冬に登るのがとくに良いコースでした。ひょっとしたら夏に登るのは初めてかもしれません。連日続いていた雨のせいなのか道端にキノコが目立ちます。タマゴタケでしょうか。食用に向いているらしいですが、一切食欲が湧きません。



タマゴダケ? 最初に食べた人はスゴイ



ヤマイグチ? これも食べられる・・・



ノウタケ ペットボトルに匹敵する大きさ



主稜線へ続く尾根道


 よく分かりませんが、とにかく大きなキノコが目立ちます。中にはペットボトル級のものもあります。写真に納めておいて帰ってから調べることにしました。出張で携行しているカメラなので接写に向きません。四苦八苦しながらピントが合っているのかよく分からないままシャッターを切っていきます。

 尾根に出ると風に当たることができ、蒸したキノコの登り坂を来た身には爽快です。秋になれば頭上から足下まで奇麗な紅葉が楽しめるポイントです。また、冬は稜線がリッジ状になる部分があるので結構スリルがあったように覚えております。

 そんな尾根を進むとなだらかな主脈に到達します。この辺りまで来ると日当たりが良いせいか、花々が増えてきます。函館山は何かと夜景で有名ですが、実は山野草などの宝庫で、以前足繁く通いこの山で多くの花の名を覚えました。雪解けと同時にフクジュソウ、イチゲと始まり、とくにスミレは多種にわたり5月くらいにかけては非番も惜しんで、植物図鑑を片手に登っていたくらいです。秋の花にはまだ早かったようで、夏の花が季節の移ろいを惜しむように寂しげに咲いておりました。



シドケ 新芽はトリカブトに酷似している




クサフジ




ハイキンポウゲ



エゾアジサイ



 牛が伏せたような形の函館山、別名は臥牛山


 
函館山は、別名「臥牛山」。額面通り牛が伏せたような形に見えることからそのように呼ばれております。いま到達した主脈はその牛の背中の真ん中辺りで、右に行けば頭である山頂へ、左に行けばお尻の方ということになります。前者はいわゆる観光客ゾーンで夜景の展望台がある方です。

  今回は観光客がいない後者の方へ進んで静かな散歩を続けて行きたいと思います。背骨にあたる主脈に付けられた砂利道を歩いて行きます。やがて、木々が無くなり、手に取るように函館の地形を俯瞰することができます。夜景でお馴染みの街の形ですが、今は昼です。当然、夜景に人気がありますが、実は昼景の方が好きという人も多いと聞きます。お尻にあたる千畳敷に着くとちょっとした起伏があって、そこを登っていきます。短い区間ですが、登山している錯覚に陥ってしまいそうな雪田のような斜面につけられたトレールを進んでいきます。



昼景で市街地を俯瞰する



登山を思わせる千畳敷のトレール



   日露戦争の要塞、その戦跡が随所に


 千畳敷を登り詰めると、函館山のもう一つの顔である要塞の痕跡を見ることができます。
 明治中頃に日露戦争を見据えて函館山に要塞が築かれました。津軽海峡と物流拠点の函館港の防衛を強化する位置づけで軍事整備された函館要塞は、第二次世界大戦が終戦した翌年の昭和21年まで約半世紀にわたり運用され、その間、山は一般人には解放されませんでした。

 そのため、先述したように花が多く豊かな自然が残されたということのようです。
 千畳敷の上に今でも残っているのが戦闘司令所の跡。屋根の部分はなくなってしまっているものの、函館要塞全体の指揮を担う司令所としての面影を残しております。また、100bほど離れた場所には砲台の跡も残っており、これらの施設は地下道や塹壕、伝声管で結節されています。

 函館山には明治から昭和にかけて整備されたこういった設備が至る所に残っております。今は誰も立ち寄らないのですが、市街地とは反対側に下りていく九十九折りの車道の跡や、ちょっとした丘に弾薬庫のような跡があったりします。



千畳敷戦闘司令所跡



砲台跡 マムシが怖くて下りられない



司令所の傍でひっそりと咲くエゾフウロ




タカネナデシコ




  日露戦争とその後津軽要塞として再編された折にも大砲が旧式だったため、見かけ上の抑止力以外、実戦での役には立たなかったこともあり、反撃を逃れ豊かな自然が守られることにつながり、結果的には良かったと言えるでしょう。

 出張中のちょっとした空き時間に、こんな感じで自然と歴史を身近に感じながら散歩して、だいたい2時間。山頂や岬の方までくまなく歩けば一日がかりと、その時々に合った楽しみ方をできるのが函館山です。
 欲を言うと、このまま夕方まで山上で時間を潰して、夜景を見てから下りるのが良いのですが、夜には出先での飲み会の集合がかかっていてそれは許されませんでした。



夕日に染まる函館山

夜景はこのくらいの薄暮で見るのがオススメ。漁り火とサンセットも同時に楽しめる

「とうよこ沿線」TOPに戻る 次ページへ
「目次」に戻る 札幌便り(9)へ