編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏
                                        NO.69  2014.6.17 掲載
                                         
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樹木
百日草の詩(7)
旬の楽しみ


                          投稿:坂上武史(札幌市中央区在住)

  北海道の山菜


 北海道の春の山菜は、雪解けの4月中旬頃から始まり、今頃の6月中旬までが旬です。
  雪が融けた地面の合間から顔を出すフキノトウで始まり、カタクリ、フクベラ(ニリンソウ)、アズキナ(ユキザサ)、アイヌネギ(ギョウジャニンニク)、山ワサビ、ワラビ、コゴミ、コシアブラ、タラの芽、ウド、タケノコ(チシマザサ)と季節の移ろいに応じて舌を楽しませてくれます。

山登りが趣味だった頃は、道中でよくアイヌネギを採って頂上でラーメンに入れて食べるのが格別でした。帰路ではタラの芽やウドを収穫して、酢味噌で和えたり、天ぷらにしてザル蕎麦と食べると、登山で火照った体がクールダウンしたものです。
 大体の人が「自分の収穫場所」を持っていて、それを他人に教えることは殆どありません。私にもそういった場所があって、山菜採りの場合、アイヌネギであれば、車を置いて3時間くらい登った山の稜線が一面のアイヌネギ畑で、そこで一年分を収穫していた頃もありました。収穫したアイヌネギは、袴を綺麗に取ってからよく洗って、長期間保存するものは、フリーザーバッグに入れてそのまま冷凍に、1〜2カ月で食べる分は醤油漬けにしていました。醤油漬けで出た溜まり醤油を先のザル蕎麦の返しに入れると、野趣あふれる春の味わいを堪能することができます。
  結婚して子供が生まれると、3時間かけて山菜採りにも行きませんし、採ってきたものを保管する冷凍庫のスペースもありません。でも、旬の味覚は忘れられないもので、路地売りなどで山菜を見かけるとつい買ってしまう時があるものです。


 雪笹

 私の好物はアズキナです。山菜ですが渋みやえぐみが全くないので、お浸しに向いています。ほうれん草や小松菜より食べやすいのではないでしょうか。お浸しにした時のほのかな甘みが小豆に似ていることからアズキナと呼ばれますが、正式にはユキザサです。笹に雪を冠したような花が咲くので雪笹です。通称も本名も直接的で額面通りの命名がされております。天ぷらはすこぶる美味で、子供にとっても山菜という感覚がなくなるのか、喜んでいくらでも食べてしまいます。
 北海道でのアズキナのシーズンはゴールデンウィーク後の5月中旬くらいです。


 食べるときはアズキナ、花をつけたらユキザサ
 舌も目も素直に楽しませてくれます(食用は新芽のみ)


 独活


 次に好きなのが、ウド(独活)です。これも芽を天ぷらにして食べると最高ですよね。でも天ぷらにするために芽ばかりを食べていたら、どうしても茎が余ってしまいますので、酢味噌やゴマ和えを作ることになります。そして、茎の方が芽より確実に多いんですね。更に私の家族は芽の天ぷらしか食べません。ですから、酢味噌和えの方が必然的に過剰となるので、食べられない分は一回分ずつ取り分けて冷凍保存しており、今となって冷凍している山菜はこれのみです。
 日本酒の良い銘柄を入手すると、冷凍庫から取り出して冷や酒のアテにするのが孤独な楽しみです。ウドのシーズンは6月初旬で、その時だけ天ぷらが楽しめます。



ウド 天ぷらの部位は少ない右の株がベストか…



ウドの酢味噌 柚を少し入れても旨い

 


 続いてはタラ()の芽。これも天ぷらが一番でしょうか。ウドの天ぷらに比べ苦みがあり、より山菜らしい味です。アズキナ、ウドの天ぷらだと妻も子供も食べますが、タラの芽となると少し敬遠されます。苦みが強いので、ビールによく合い結構量を飲んでしまいますが、天ぷらには蕎麦ということで、その後、蕎麦を食べ始めると、つい日本酒に手が伸び、結局飲み過ぎるという結果になっていきます。
 タラの芽は5月下旬が旬ですね。同時期にコゴミがありますが、ウドやタラの芽より草いきれのような青臭さがあるものの苦みは少なく、タラの芽などの箸休めにはちょうど良い素朴な美味しさがあります。



上からタラの芽、ウド、コゴミ




山菜には旨い酒を合わせたい

 千島笹


 春の山菜はタケノコで締めくくられます。タケノコと言っても本州でいう笹の子のことで、皮をむいてしまうと直径1.5cmくらいの細いものです。フキと煮付けたりもしますが、簡単に食べるのなら、最後の皮一枚を残したままラップで巻いて電子レンジでチンしたものをマヨネーズで食べるのが手頃です。他に、バーベキューの際にでも皮付きのままアルミホイルで包んで焼き、頃合いを見計らってアルミホイルと皮を剥いたところに、醤油を少し垂らして食べるのが手っ取り早く美味しい食べ方です。採ってきたら直ぐに食べないとえぐみが回るので保存には向かないです。
 ちょうど今頃6月の中旬頃がタケノコ採りのピークです。なので、毎年今の季節は「山で迷子」というニュースがよく流れます。
 行者忍辱


 たくさん食べたいけど、あまり食べられないのが、アイヌネギです。アイヌネギはユリ科ですが、同じユリ科の中でも特に臭いニンニク、ニラ、ネギを一堂に会したような臭いが独特です。
 食べた後が大変で、周囲の人や家族も一緒に食べていないと、とても迷惑で疎まれます。食べる量にもよりますが、度を超すと息、汗、排泄物の全てが数日間アイヌネギそのもので、これが周囲を辟易とさせます。
それでも若い頃はお構いなしに、タレ付きジンギスカンとアイヌネギだけという猛烈な臭気を帯びた焼肉をしていたものです。その当時は、採りに行くとなれば群落を目当てにほぼ一年分を収穫(乱獲?)していました。収穫してその後袴を取ったりしていると指先に臭いが付きますが、この臭いも半月は消えないくらいです。その後、少しずつ分別がついて、登山の際に道中生えていたら、山頂で食べるラーメンの薬味程度にしか採らなくなりました。インスタントラーメンにウィンナーをアイヌネギと共に煮込んでビールといただくと、下山の元気が復活してきたものです。ちなみに煮込まないと辛いです。この辛みもニンニク、ニラ、ネギ譲りでしょうか。


アイヌネギの群生 辺りに臭いが漂う
   増毛山地ホンジャマ平にて


  
 
 赤田の芹


 幼少期に横浜の赤田で両親に連れられて採ったのはセリ(芹)だったはずです。赤田の畦道に張り付くように生えていたのを鎌でむしり取って、無造作にビニール袋に入れて採っていました。
 当然他人の田畑ですが、特に注意されるわけでもなく、逆に食べ方を教わったりなんかして……。そう考えると長閑だったんですね。
 セリの天ぷらを塩で食べたのが子供ながらに美味しくて、少しの苦さと香ばしさが今でも忘れられません。
このセリは北海道では見かけません。キリタンポ鍋に入れるような背丈のあるセリはスーパーで売っていますが、畦道に這って生えていたようなセリは見たことがありません。これらは一体同じものなのか、今度スーパーで買ったものを天ぷらに揚げてみようと考えています。



幼少の記憶が蘇る山菜の天ぷら
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