編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏
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2014.5.31 掲載
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春の花々
投稿:
坂上 武史
(札幌市中央区在住)
通院で楽しむ花々
先日、帯状疱疹と診断されました。今年度に入って仕事の環境が大きく変わる中で、函館、津軽、水戸などへの出張へ行きつつも細々とした人事の出入りに対処し、更には休めば良いものを休日に温泉や旭山動物園へ家族サービスしたりと、少し疲れていたようです。
数日前から、胸のあたりに発疹があるのを認識しておりましたが、ドクガ(毒蛾)か何かだろうと気にすることもなく、痒みを我慢していました。しかし、痒みが引くどころか次第に痛みが伴うようになってきました。出張に行く日、飛行機まで時間が空いたのを見計らい、塗り薬でももらっておこうと皮膚科に行ったところ、直ちに帯状疱疹と診断されました。
安易に考えていましたが、直ぐに採血、投薬、点滴ということになりました。出張は黙認という形で何とか行けましたが、その後、一日おきに皮膚科へ点滴に通うようになりました。朝、自転車で下の子を保育園に送り、そのまま皮膚科へ行って
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分強の点滴を打ち、その足で会社に向かう生活をしております。朝の
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分強の点滴は二度寝に最適で、一日おきとは言え、癖になるものです。点滴がない日の午前中は眠くて仕方がありません。朝の点滴というか二度寝で、スッキリと少し遅刻して出社するのは何とも気持ちが良いものです。
そんな時間外れの通勤路では街路樹や道端の花々が目にとまります。今回は、不意に生まれたちょっと贅沢な時間に見た北海道を代表する春の花をご紹介いたします。
リラ冷えの街
「札幌の木」として指定されているのがライラックです。5月の中旬以降、公園を始めとして人家の庭先やちょっとした空き地にも沢山咲いています。市の木だけあって、あちこちに無造作に生えているといった感じで、花をつけるこの季節にはとても目立つ存在となります。そもそも花付きも良く、小さな花の集まりが鈴なりで咲いて、更には上品な香りを放つので、その存在感は市の木としては相応しいと言えるでしょう。
ライラックのことをフランス語では「リラ」と言います。作家渡辺淳一氏に『リラ冷えの街』という作品がありますが、そのリラ冷えとは、ちょうど暖かくなりかけてきた今時分の札幌であっても、ライラックが咲く頃に突如ストーブが必要なくらい冷え込むことがあるので、そういった気象のことを言うのです。
我が家でも昨秋から入れっぱなしだった暖房のスイッチを切ったのが今週でした。私の帯状疱疹も、こういった寒暖差が影響しているのかもしれません。
札幌の街角を彩るリラ(ライラック)の花
ナナカマドの街から
次にナナカマドです。札幌では市民の木とはしておりませんが、旭川市や苫小牧市など、北海道内の複数の市町村で市民の木として親しまれております。
旭川出身の作家・三浦綾子女史に作品『ナナカマドの街から』があります。秋になると、熟し始めた赤い実と緑の葉の対比が美しいのですが、秋が深まるにつれ葉も赤みを増し、ウルシに並んで山間や市街地に錦秋の色合い添えてくれます。やがて葉が落ち、雪が降る季節になっても赤い実だけは残り、そこに冠雪した白い雪とのコントラストも、正月を彩る初冬の風景として定着しております。そんな赤い実の方が取りざたされるナナカマドですが、ちょうど今の時期に白い花を沢山つけるのです。遠目には地味でニセアカシアや栗に間違えられそうな感じですが、近寄って見るとウメバチソウのような小さな花が密集していて花の一つ一つはなかなか愛らしい形をしております。街路樹や緑地に沢山植えられ道民になじみの樹木の一つですが、その名前の所以も非常に覚えられやすいものとなっております。「七度竈に入れられても燃えない」木だからナナカマド。これは本当で額面通り全く燃えません。
昔、山登りをしていた時に山中での幕営で薪を集める場合は、焚き付けに使うガンピ(ダケカンバの樹皮)や虫除けに燃やす松の葉は拾っても、ナナカマドだけは決して拾わないようにしていました。そんな頑固物のような存在でも、意外に繊細な花や綺麗な紅
葉を見せるのが、道民から好かれる理由のような気がします。
秋は錦秋の色合いを添えるナナカマドの街路樹
ナナカマドの材木は備長炭材の極上品。火力が強く、火持ちが良いのが特長
小さな花が密集した可愛らしいナナカマドの花
最後はスズランです。かつてNHKの朝の連続ドラマ小説で放映された「すずらん」がありました。昭和という激動の時代を清楚さを貫きながら全うした一人の女性の物語だったように記憶しております。スズランもまさにそんな感じで、人々が忙しなく行き交う街頭でもひょっこり顔をだして、直向きに純白で可憐な花を咲かせているのをよく見かけます。これも札幌市と縁があり、“市民の花”として制定されております。郊外には「滝野すずらん公園」があり、そこで見られる大群落も道民によく知られています。またの名は「君影草」。葉に隠れて咲く花の姿がその由来です。
ただ、こういった清純なイメージとは裏腹に実は結構な毒をはらんでおります。2〜3年に一度は、すずらんを食べて死亡したというニュースが道内で流れます。同じユリ科のアイヌネギ(ギョウジャニンニク)と間違えて食べてしまうのがその原因です。見た目は紫色の袴なども近似しておりますが、葉の厚みはすずらんの方が勝る一方、アイヌネギはネギとニラとニンニクを混ぜたような特有の臭いがあるので、嗅覚を使えばその決定的な違いに気がつけると思います。一輪差しにスズランというのも季節感が感じられる気の利いたアクセントになりますが、その一輪差しに入れられた水も毒物です。中毒を起こしてしまうので、我が家のような幼児が居る家ではやらない方がいいのです。
可憐で清楚な感じのスズランの花
スズランはみずからの身を守るため毒を持っています。ヨーロッパの山岳地帯、スイスなどの牧草地にはスズランの群落が随所に見られます。毒草であることを知る羊や牛が、スズランだけは食べないから
野バラ
横浜の市民の木はイチョウでしょうか。日吉のキャンバスのイチョウ並木は綺麗ですよね。横浜の花はバラですね。正直、横浜での幼少期とバラの想い出はありません。ちなみに北海道の花はハマナス。これもバラ科です。野趣に富んだ無骨なバラで、今はまだ花期ではないのですが、これから初夏にかけて道内のいたる所で無造作に咲いてくるのでしょう。またの機会にご紹介したいと思います。
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