目の前に広がる、約300世帯の同潤会アパート
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起伏のある緑の中に建ち並ぶアパート
華やかな表通りとはガラッと変わって、緑の中に歴史を感じさせる古さが心を落ち着かせます。
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時も場所も超越した気分に
自然の起伏を利用した棟配置になっているので、坂道や石段が多く、道も入り組んでいて、探索の興味が尽きません。古い家屋に囲まれた道を歩くと、時も場所も超越した気分になりそう……。
でも、そこには現実にしっかり根を下ろした住民の生活があります。
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昭和5年開業の独身館・居住者用の「代官山食堂」
線路寄り側の29号舘から33号舘は、当初独身舘と称する家具付ワンルーム棟で、居住者が近くで食事がとれるように、との配慮から、アパートの付帯施設として、昭和5年に開業しました。雨天でもカサを持たずに行けるよう、居住棟から渡り廊下がつけられていたり、戦前は出前にも応じていたそうです。喫茶として、コーヒー、ビールなどを置いていた時期もありました。
50年近くここを切り盛りしている大原さん(80歳)は、戦争中もー日も営業を休まず、毎日魚河岸まで買い出しに行ったとか。屋上に焼夷弾が落ちたこともあり、その跡が今も壁などに残っています。
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燃料が薪の「文化湯」
当初風呂なしだったアパートの付帯施設として、ゴミ処理目的も兼ねて開業しました。
現在は改装して内ブロのある部屋も多く、利用者が減っているとのことで、一般の銭湯として営業しています。でも、内ブロがあっても通ってくるなじみのお客さんや、土地柄、外国人のお客さんも多いとか。
燃料は今時珍しく薪。古いコンクリート壁を埋めるように木材が高く積まれています。
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夕方になると聞こえくるラッパの音
毎日夕方6時すぎ、アパート一帯に、「プー、プー」というラッパの音が響きわたります。すると、家々から、鍋やボールを持った人が集まってきます。そう、お豆腐屋さんです。自転車に大きな木箱をつんで押してくるのは、恵比寿にある箕屋(みのや)とうふ店の横山さん。
15年ほど前までは天びんをかついで来ていたとか。手作りのお豆腐は、とってもおいしい。都会にこんな情緒が残っているなんて嬉しいですね。
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「代官山食堂」前の広場に店を出す八百屋さん
新鮮な野菜を千葉県などからどっさり仕入れてきて、箱詰めのまま並べます。歩いて買い物に行けないお年寄りが上得意、「皆さんがいつも心待ちにしているので、どんなことがあっても休めません」、とご主人。
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“足を向けて寝られない”3軒が並ぶ早朝の八幡通り
左手は代官山郵便局。足を向けて寝られない1軒目がフランス菓子の本格派「シェ.リュイ」。こちらの店長さんが本誌「代官山特集号」を店内に置いてくださり、次々声をかけ、200冊以上も売ってくださいました。
次の「トモエ薬局」の小山邦雄さんは代官山商店会の事務局長さん。役員の皆さまや各お店を一緒に回って取材協力を呼びかけてくださいました。
その先、高いビルのオーナーでセフティ且ミ長の岡部健夫さんは、初めてお会いした私に、なんとこんな有り難いお言葉を。「わたしの同潤会アパートを取材中、どうぞ使ってください」と写真右を気前良く貸してくださいました。
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八幡通りに面した5号館2階の右側が活動拠点
「この真夏に日吉から代官山まで通って取材するのは、大変なことです。部屋は社員の福利厚生用に改装したばかり、編集室としてどうぞ!」。
この岡部社長のご好意に甘えて本誌35号「代官山特集」取材中の1カ月間、スタッフ打ち合わせ・休息・会食場所として毎晩遅くまで有効に使わせていただきました。
84歳の岡部社長との会話中、「カネには本当のカネと嘘のカネがある。お金を儲けた人が世の成功者だという社会風潮が、わしは嫌いだ」とおっしゃたお言葉が今も身に染みています。
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36棟の旧同潤会代官山アパートが、代官山アドレスに
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代官山郵便局前から見た旧同潤会代官山アパート、代官山アドレス
東横線の線路寄りに建つ高層ビルが住宅棟、道路左側の棟が事務所棟、手前左右に走る八幡通り側が店舗などの商業施設、と大別されているようです。
住宅棟のニョキとそそり立つビルの高さは120b、36階建て、その名を「代官山アドレスザ・タワー」と呼ぶそうです。入居世帯は501世帯、そのうち同潤会代官山アパート時代からの住民で再入居した世帯が253戸というから、ほぼ大半。皆さん、代官山を愛する人たちで、この地を離れがたいのですね。
2013.5.17 撮影:岩田忠利
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