編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏
   NO.890  2016.02.18 掲載
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地域
  
「等々力・尾山台」 ウォッチング

★昭和63年2月発行『とうよこ沿線』第41号「Do You Know 等々力・尾山台?」から
取材・文・写真:鈴木ゆうこ/高橋かすみ/小田房秀


騒々しい幹線道路から一歩ふみ出したら、

 やさしい木漏れ日とせせらぎがあった。

建ち並ぶ邸宅のむこうに、

 古代のロマンを運ぶ古墳がこんもりと残っていた。

息を大きく吸って、春風のように足どり軽く、

 誰よりも早く春をみつけに、

 歩いてみたい、等々力・尾山台。

  その   「おもいはせの路」を尾山台〜野毛〜等々力を歩けば

過去に、未来に、思いをはせて、
          歩けば御利益ありそうな…

 九品仏駅を出てすぐ右にある″おもいはせの道″の案内板。ここが、二子玉川園まで続く散歩道の出発点。
 本誌34号奥沢特集で取り上げた九品仏商店街を抜け、環八を渡る。



“おもいはせの道”案内標識。他に石柱や歩道タイルの案内がある

大正時代、日本最初の民営水道だったという玉川浄水場。今は工業用水の給水しかしていない。
 近くに田園調布雙葉学園もある邸宅街を行<と寮の坂″。区内最古の名を持つこの坂の由来は、14世紀にさかのぼる。伝乗寺僧侶の学寮があつたためといい、その後もしばしば歴史に登場している。わきの宇佐神社もかなり古い。裏手の鎮守の森が八幡塚古墳



寮の坂石柱。大きくカーブした坂下に、伝乗寺が現存する

珍しい竹林など過ぎ、右側に坂をのぼっていく。右手の小高いところが狐塚古墳。今はコンクリート塀に囲まれた子どもたちの遊び場になっている。左に曲がり、環八と並行する道を行く。起伏が多い。階段をのぼりきったら、左へ。逆コースでは、この階段入り口(この先行き止まりの標示)を見落としやすいので注意。
 御岳山古墳も、かつては神社が祀られていたというが、今は、派出所裏の小山でしかない。

 筋向いの等々力不動尊の左わきから、等々力渓谷へ下りる。すく下が都内有数の自然滝不動の滝″。小さな滝ながら、霊感を得たいと行をする人が後をたたないという。湧き水がしみ出して、付近の岩肌も湿っており、都会の真ん中にいながらにして、奥深い渓谷の雰囲気が感じられる。

 



等々力不動入口。境内左手の公園は、桜の名所


不動の滝。巨人軍の駒田選手など、芸能・スポーツ関係者で、この滝に打たれた人も多い


渓谷の南方、多摩川沿いに用賀〜六郷を結ぶ丸子川、またの名を「六郷用水」と呼ぶ

谷沢川沿いの散策路は1キロ先のゴルフ橋まで続くが、″おもいはせの路″は途中から、喧噪の環八へと戻り、玉川野毛町公園へ。
 整備された花壇やテニスコート、球場の奥に、この付近最大の古墳、
野毛大塚古墳がある。


かつてドプ川だった谷沢川も、浄化装置で少しはきれいになった(?)川べりにはカモも遊ぶ



環八へ上る途中にある横穴。8世紀の有力者の墓という。渓谷は蚊が多いので、夏場は虫よけ対策を十分に十分に



善養寺の大力ヤ。この木の洞穴には、その昔近所の子どもたちが、二人一度に入って遊んだという


野毛大塚古墳。のぼって遊ぶ子供たちの姿も見られる





 区民の集う玉川図書館青年の家の前をすぎて坂を下る。都の天然記念物になっている大樹のあるのが善養寺。生きている木の力強さに、改めて感動してしまう。

 六所神社との間の坂を下り、丸子川沿いの道に出る。西に多摩川と玉堤通りをかいま見ながら第三京浜の下をくぐり、上野毛へ――。

 このあとは、本誌前号の二子玉川・上野毛特集をご覧いただけばわかると思うが、この“おもいはせの道”は、世田谷区が「緑と水のネットワーク」をめざし設定したもの。コースをそれて寄り道したいところもたくさんあるが、とりあえず区役所か支所で地図をもらって、このコースを歩いてみたい。

    霊験あらたかな土地!?

 等々力、という地名自体、不思議な響きを持っているが、この付近には、不思議な言い伝えも多い。
 有名な話で、野毛大塚古墳が血を噴いたというようなたたりの話や、縁起のよい雲が突如わいた、霊感がわいたなど奇跡のような話、さらにこの付近にたくさん棲息していた狐にだまされた話など数えあげればきりがない。それがもとでできた寺社も多いという。



その昔、キノコ採り来た女が狐に化かされ、谷沢川が逆流し、玉沢橋(写真)下が地震になったと思い、失神したという言い伝えもある等々力渓谷









             
  その   等々力散策で意外なもの、見つけたぁ!

   等々力あちらこちら

 駅名の等々力はひとつしかないが、等々力という地名がついているところは、1丁目から8丁目まで実に広い。

 1丁目には不動尊や渓谷、2丁目は、尾山台駅前と等々力駅前の二つの商店街を持ち、3丁目には公的機関が多い……など、場所によってずいぶん表情が違う。周辺地域も含め、あちこちをつまみ食いしてみたい。

 なかなかお洒落になってきたのが、紀ノ国屋もある目黒通りから駒沢公園通り方向。知る人ぞ知るおいしいお店なんかも、ぼちぼち。目黒通りと環八には、外車のディーラーもよく目につく。思わずよだれをゴックン。



歩道のコーナー部分に、こんなデザインのガードが…。“区の樹”のアピール、ニクイですね

 商店街なら何といっても尾山台駅前。整然と植えられたイチョウ並木の両側にお店がぎっしり並ぶ。おしゃれなブティックやケーキ屋さんも増えてきている。



尾山台駅前 “Flower  Booth  Mitsue”。タオル・石鹸・ハーブ……と型にはまらない、香りと花のお店


住宅地のまん中に、こんなかわいいお店が


 小・中・高そして大学が多いのもこの地区の特徴。さすが文京地区。園芸高校や武蔵工大など、ユニークな学校もあるからチェック。



玉川地区で最も歴史があり、校名地名にもなった伝統ある玉川小


住宅地の中で、近代的建物がひときわ目立つ武蔵工大

   よくぞ集めた大コレクション

 等々力1丁目の山谷頼三さん(85歳)は、民具、玩具.ミ〓チュアの収集家。「昔これで遊んだ!」と、マニアならずとも泣いて喜びそうなものが部屋じゅういっぱい。
 また、ミニュチュアのトランプ・ラジオ・辞典・ハーモニカ・懐中電灯などがぎっしりつまった、これまた小さな旅行カバンがすごい。「これ一つあれば、旅行中不自由しない」とか。



コレクションに囲まれた山谷さん。ここはまるで別世界
























 そして何といっても、高級住宅地が大半を占めているから、すごい邸宅も多い。すばらしい庭や、彫刻をほどこした建物、お城のようなのもあって驚くが、個人の住宅なので紹介できなくて残念。

   有名人の住宅が多い所だ

 有名人も多く住む。文芸・評論分野では、安岡章太郎、井上ひさし(以上、尾山台)、加藤周一(上野毛)、塩田丸男(等々力)など。スポーツ関係では、原辰徳、篠塚利夫、ファイティング原田(以上深沢)、坂口征二(等々力)など。芸能関係も多く、草笛光子、井上陽水、世良公則、日色ともゑ、佐藤蛾次郎、本誌酷勢調査″にも登場していただいた池内淳子(以上、等々力)、春日八郎、三田佳子、石川さゆり、牟田悌三、浜木綿子(以上、深沢)、佐良直美(尾山台)など数えあげればきりがない。

  昨年7回もテレビに出た、
     等々力駅前の売れっ子ケヤキ

 なんと店の真ん中に、屋根をつきやぶって立っている大ケヤキ。大黒柱ケヤキといわれるこの木、樹齢150180年位で、胴廻りは25メートル、葉を集めると2トン車で10台分とか。



店の中のこの木が屋根を壊し、5年前に改築したという。裏手は等々力渓谷に架かるゴルフ橋


切るに忍びないか、歩道ににょっきり生える大木(中町コートハウス前)


横浜へ向かって一直線に多摩川を渡る第三京浜 (野毛2丁目高台から)


  今もわずかに残る農業

 玉堤通りに″玉川温室村″というバス停がある。・昭和初期からカーネーションを栽培する温室が建てられ、一時は3040個もの温室が並んでいたというが、最初にそれを始めた玉堤1丁目の間島さん宅でも、今は数個に減ってしまった。

 畑作向きの土壌、温暖な気候、そして何より東京からの需要で、世田谷は昔から野菜の一大産地だったが、近年は、その面影はほとんどない。

 そんな中、駒八通り西側(等々力5丁自)の区登録農地は貴重な存在。



貴重な都立園芸高校の果樹園




間島さん宅の、当時のままの温室。中は花がいっぱい

 また、野毛2丁目には、清水のもとでしかできないわさび田″があるというから驚く。

 土の香りと自然の恵みを身近に感じられる農地を、大切に残していきたい気もする。

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