編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏
   NO.868  2016.01.26 掲載
人物  ハンディ−を乗り越えて  タカくんの日記から
 ◆ この原稿は角田隆芳さんの母上・リュウ子さんの代筆です

運動会の思い出


 ボクは運動会にはちょっと恥ずかしい思い出があります。ボクが通っていた養護学校の生徒は体が不自由だけでなく、知能や精神面に、また言語などの障害を合わせ持っています。

 小学校3年のとき、ボクは運動会の選手宣誓を命ぜられました。その頃のボクはまだ言葉が余り出ませんでした。でも、「先生」と言うだけは、はっきり言えましたのでボクに白羽の矢が立ったようです。


 

 家で繰り返し、繰り返し練習して、いよいよ本番……。とても緊張しました。校長先生の話が終わり、ボクはマイクの前に立ち、始めようとしました。でも、声が出ません。会場が一瞬シーン……。慌てた先生が後ろから小さな声で教えてくれました。ボクも先生の小さな声を真似して「センセイ!………」とやっと言えたのですが、みんなには全然聞こえなかったようです。
 母は冷や汗をびっしょりかいたそうです。



市長になりたい!


 横浜に花相撲(巡業) が来たとき、母がマス席を買ってくれ、初めて本物を見ました。
 車椅子なのでボクの席は最後列、砂かぶりは市長さんや役所のエラそうな人たちばかり。ボクはもっと近くで見たくて母にねだると、

 「市長になりなさい。そうすれば、あの席で見られるから……」
 と言う。

 知人の或る市の元市長さんだった人にその話をすると、
 「市長なんて、バカでなければできないよ。知らない人にニコニコしたり手を振ったりね」
 それなら自慢じゃないがボクの得意とするところ。市長になりたいなあぁ!





「コ・ニ・シ・キー!」

               大好きな相撲


 ボクは相撲が大好きです。一番好きな力士は小錦。初日から千秋楽まで欠かさずテレビ観戦しています。

 タビをはき、軍配を持って部屋の中を相撲に合わせてあっちへこっちへと這いずり回っています。


ボクは行司です。物言いがついたときには、すぐにマイクを持ち、「ただいまの協議について説明します」と審判になります。
 呼出しや時間係もー人で全部しながら見ると、疲れるけれど相撲が
10倍楽しいですよ。


              初めての海外旅行


 平成43月、ボクたち家族はシンガポールへ初めて海外旅行をしました。弟の高校卒業とボクが20歳になり障害者年金が受けられるようになったのを記念してです。

 海外といっても、日本語は通じるし、街はきれいだし、タクシーは安いし、食事は大好きな中華だし、ツアーの仲間は




みな親切にしてくれて、とても楽しい。シンガポールの人は中国系の人が多く、顔が日本人と区別ができず、ボクは会う人、会う人に「ボクの年金で来たんだ!」と、ついお喋りするので、母たちは少し困っていたようです。
 でも年金がたまったら、またシンガポールへ行きたいなぁ!          (企画:小森美貴子)



          ◇プロフィール◆

角田隆芳  昭和467月生まれ、22歳。

双子の一人として誕生。難病により脳性マヒとなり知的、体躯機能の障害を持つ。もう一人は死産。養護学校卒業後、地域の作業所に通う。
  平成4年、本人の希望で「陶芸器サロン隆」を港北区樽町に開店、母と二人で経営する。


                 ★平成6年5月発行『とうよこ沿線』第60号から


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