高架は高速道路、平地が第一京浜国道沿いの神奈川区神奈川2丁目。神奈川警察署のはす向かいに金看板で「兵庫屋履物店」。いかにも暖簾がものいいそうな老舗が目に入った。なかに入ると、下駄や草履を中心にサンダルなども並んでいる。
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第一京浜国道沿いの兵庫屋履物店 |
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現れた、かっぷくのいい奥様、森千代子さん(76)と雑談するうちに、この店がとてつもない老舗であることが分かった。
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千代子さんは初代から数えて第11代目。初代は江戸時代の宝暦5年(1755年)、今から220年前。
当時この辺りは神奈川町の仲之町、遊廓として賑わっていたが、その遊廓は明治期から反町に移っていった。兵庫屋は代々荒物屋であったが、下駄屋に商売替えしたのは祖父の代の明治5年から。
父・新三郎さんも神奈川小学校で教鞭を執るかたわら下駄屋を手伝っていたそうだ。明治5年といえば、♪汽笛いっせい新橋を……の横浜〜新橋間に日本初の鉄道が開通した年、すでに103年になる。
東海道の神奈川宿で栄えたこの地域は大火、震災、戦災と3度も壊滅した。そんな中、戦後いち早くバラック建ての店を開いてお客さんに履物を提供したのは兵庫屋だった。今でも店内の「《標準品上場》神奈川縣選定第6号」という県認定の掲示板がそれを物語っている。
今は下駄や草履を履く人も少なくなったが、欠かせない人たちもいる。その人たちのため、ご主人と千代子さんは朝6時から店を開けている。
「すぐ近くに横浜中央市場があって朝が早い。その仕入の帰りに板前さんらが寄ってくださるんですよ」と千代子さん。
ここに、老舗を守る心意気を垣間見たようだ。
文:岩田忠利
店‥神奈川区神奈川2−10−10
兵庫屋履物店 441−4372
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