ここ平川町通りは、かつての八王子街道。道沿いにある提灯屋さん・表具屋さん・畳屋さんなどが、今も営業、かすかに往時をしのばせる。
2代目の竹内さんがここでこの仕事を始めて44年。10坪ほどの板の間の仕事場にはノミやカンナなど道具類が所狭しと並び、きょうも一心に桶づくり。あたり一面に木の香りが漂っている。
「たまたま今じゃあ、珍しい職業になつてしまっただけだよ。これも、オレ一代で終わりだよ」。節くれだった手を休め、ご主人はそう言った。
最近住宅事情が変わり、木の風呂桶は滅多に注文がない。で、今の商売の中心は、プラスチック・ステンレス製風呂桶の販売と修理だが、竹内さんがいちばん生きがいを感じるときは「木の感触を忘れられない人に出会ったとき」とキッパリ言った。
椹(さわら)の風呂桶でひと浴び、明日の鋭気を養うのは今時、とっても贅沢なのだ。
(武蔵小杉・大谷敬子)
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