この前、酔っ払ってこけて顔打っちゃってね
のっけから、豪快なお言葉をいただいた。もうこれだけで、こちらの緊張がふわんと軽くなる。なんともカッコイイ。無地のセーターにスラックスという、いたってシンプルないでたちなのに、威勢よく「華」を感じさせる女性である。
昭和5年生まれの68歳。ウッソー!! お若い。にわかにはとても信じられない。まるで染めたかのように艶やかな銀髪がすこぶる眼にまぶしい。この方が、天下の「有隣堂」の社長さんだ。有隣堂といえば、ハマっ子御用達の書店。老舗中の老舗だ。うかがえば今年で創業90周年。お店の数も横浜を中心に32店舗を数えるという。創業者はお父上の松信大助氏。11人兄弟の末っ子として若き19歳の時だった。
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結婚、出産、子育てが大切な宝物に
結婚後、ここだけは絶対イヤだったはずの「有隣堂」に就職。そしてキャリアを積み上げた頃に妊娠、出産、育児と。やむなく第一線を退き、裏方に回ることになる。
登校拒否、過食症…。忙しすぎる母親に嫌がらせをするかのように、2人のお嬢さんは孝子さんを苦しめてくれる。どうして私だけがこんな目に。仕事を持つ女性の辛さ大変さを痛いほど味わう日々。
しかしこれが後に大切な、大切な宝物となるとは……。人間万事塞翁が馬$l生何が幸いと転ずるかわからないのだ。
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「人財を育てること」が使命
今、社長という座にあって、ご自分の使命を「人財を育てること」ときっぱり言い切る。知的文化に関わる商品を扱うにふさわしい人財をいかに育てるか。また女性が本来持っている力をうまく発揮すれば、生き生きした組織づくりに大いに役立つはず。
「出産、育児で多少足踏みしたっていいじゃない。その間に会社では学べない、すごい事を勉強するんだから」。その時期を乗り越えた女性にはある種の魅力が備わる。それがサービス業としての大きな財産ともなるのだ、と。
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ストレス解消は野良仕事
有隣堂だけでなく山手学院の理事長、神奈川日販会の会長と超多忙な篠崎社長がストレス解消にもう最高! とおっしゃるのが野良仕事。
そのために伊豆の韮山に土地を購入なさった。野菜作りと人財の育成はよく似ている。
促成肥料ではなく堆肥を丹念に混ぜ、黙々と土を耕す……骨のおれる作業だが不思議と心が癒される。土壌作りは何よりも楽しい。農耕民族の血が騒ぐのかしらね。ミミズがぴょんぴょん跳ねてると、「頬ずりしたい位に愛おしいの」。
すると、びっくり。ふいに孝子社長が鍬を担いだ農婦に変身なさっていた(ような気がした)。
(文:品田みほ)
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