「ヘイ、いらっしゃい! 鯛焼き3つね。寒いねェ。ハイ! 身体に気をつけてね、おばあちゃん!」
都立大学北口を呑川沿いに歩いて約3分。八雲通り商店街の入口近くに、かわいい鯛焼き屋「富士屋」がある。ここのご主人、平沼太平さん(62)である。
「えっ、登場? わしなんか、柄じゃないねえぇ。
ただ18年間こんなお祭り商売やってきただけだよ」
そう言いながら、次々とお客さんをさばいてゆく。わざわざ焼きたてを買うために、師走の寒空の下で待つ人も。
転機は交通事故
「最初は履き物屋。交通事故に遭ってね、1年間寝たきりだったから、これならと思って…。だけどダメ。赤字出してねぇ、ハッハッハッ」
鯛焼きを焼いてゆく片手間に話してもらうが、つい、平沼さんの手さばきに目がいってしまう。こんな気さくに話しながらの見事な腕前を見にくるお客さんも多い。
「コツ? 特に無いねぇ。ただ持ち帰りのお客さんが多いから、途中で冷めても大丈夫なように、粉も工夫したりね。それくらいがコツというかねぇ」
聞けば餡も特注で工場に作らせているとのことだ。程よい甘さで、つい食べてしまう。
売上げよりも良いものを…
「技術的なことは、失敗の積み重ねですよ。素人だから何事も経験しなきゃわからない。それに、完成ってことがないから、もっといいものがつくれると思ってやってます。お客さんから学ぶことも多いし、一生勉強、一生修業ですよ。だから、失敗を怖がっちゃダメ。そこから学ぶ。何事も経験ですよ」。
これが平沼さんの商売の神髄である。
「売り上げよりは、いいものを作る方が大切」とおっしゃる平沼さんの趣味は、奥さん光枝さんとの時折の温泉旅行。
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