オハヨウゴサイマス―― ただ、それだけの言葉で、こんなにうれしいとは思わなかった――泊まりの勤務の明けた朝、改札口に立っていると、女子高生が声をかけてくれるのです。
ドラマのように毎日いろんなことが…
私が生まれ育った地元、自由が丘駅に配属されたのが、今年の4月。駅に来て、最初に感じたことは、実に毎日いろいろなことが起きるということでした。
ある日、こんなお婆さんが駅に来られました。
「あのう、私がどこで降りたかわからないので教えてほしいのですが……」
――はあ?
「自分がどこに行ったらいいか忘れてしまったので、途中で降りて駅員の人に聞いたのです。だけど、その時、持っていた植木鉢を忘れてしまったのです。だから、その駅を教えてほしい」
また、改札口に立っていたら「食えよ」と、手づかみにはだかのまんま、ショートケーキを置いていったサラリーマン風の人もいましたし、有名人なのであろう、清算をしても一言もしゃべらないサングラスをかけた六本木からの美しい女の人……。まさに、ドラマの連続だと言えるでしょう。
駅務員の喜び
しかし、駅で働いていて良かったと思う瞬間は、別の時にあります。ふいに起きる出会いの時です。
小学生の女の子が「今日はね、急行じゃなくて各駅停車で行くのー」なんて話しかけられると、すごくウキウキします。また、いつもお世話になっているからお礼にと近所の幼稚園の先生と園児が花束を持ってきてくれたのには、びっくりするやら、うれしいやら。それから恵比寿への行き方を二度ばかり教えた外人が、私の顔を覚えたらしく、次に改札口で会ったらHELLO″と声をかけられたこともありました。
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駅は確かに互いに見知らぬ人々がすれ違う場所です。それは、まさに冷たい都市の構図ともいえるかもしれません。しかし、そんな中で、谷間に咲く一輪の白百合と言えるような、駅務員とお客さんとの間のちょっとしたコミュニケーションが逆に駅務員をホッとさせるのかもしれません。
こうしたことは、決してデスクワークに従事している人には味わえないことです。また営業マンも確かに人とは接しますが、しかし駅務員は商売抜きで人と話し合えるという点で大きく違うと思います。
駅務員の仕事は、いわゆる改札・ホームの仕事だけではなく、掃除や泊り勤務用の食事づくりなど、大変多岐にわたっています。しかし、仕事が多岐にわたっていればいるほど、こうした人との出会いは、私たち駅務員の心を和やかにしてくれるのかもしれません。
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西野裕久(にしのひろひさ)さん
一橋大学社会学部地域社会研究科卒後、今年4月、東京急行電鉄に入社。4月、地元自由が丘駅に配属。10月から大井町線の車掌に。23歳
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