わっ、体が動かない!?
日曜日の朝9時半、川面を渡る風はひんやりしている。あいさつを済ませて、まずグラウンドを一周。それから全員で輪になって準備体操。ここでじゅうぶん体を動かし、筋肉をほぐしておかないと、練習中に思わぬケガをすることがある。だから、念入りに体をねじり、前へ倒して……イテテ、どうしたんだ? この程度で痛みを感じる俺ではないはずなのに……。
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これ、みんな女性ですよ! |
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世田谷レディースのみなさんは、と見ると、みんな楽々とこなしている。
本日の参加メンバーは16名。20歳前後のOL・学生から、いかにも「オカアサン」といった感じの主婦まで、顔ぶれは非常にバラエティーに富んでいる。試合を1カ月後に控えた大事な時期に、私たちのような初心者がのこのこ現れて、足を引っぱるような結果にならなけりゃいいのだが……。
女性ばかりだといっても、みんな練習を積んできたラガーである。あなどることはできない。ましてや、日頃の運動不足から体がなまり切っている学生部スタッフの面々が、本当に最後までいっしょに練習できるのだろうか……。不安はつのるばかりだ。
Ha君の独壇場と思いきや……
今回の取材スタッフの中で、唯一のラグビーの経験者Haに、私たちの期待は集まった。彼なら、うまくやってくれるだろう。なんにも知らない私たちをリードしてくれるにちがいない、と。
彼自身もそのつもりらしく、「大丈夫ですよ。僕がついてますから」と胸を張った。
さて、準備体操が終わると、さっそくラン・パスだ。4、5人一組で、パスを回しながら走る。最初はゆっくり走りながらなので、さほど疲れない。だんだんスピードを上げる。するとそ2、3回で早くも息が切れてきた。休む間もなく腕立て伏せ15回。終わったらまた走る。もはや全力疾走だ。
もう何往復しただろう? 写真担当で練習には参加していないHu君に、そっとたずねた。
「ねえ、今、何時なの?」
「えーと、10時10分ですよ」
えっ! まだ40分しかたってないの!? てっきり1時間半は経ったと思っていたのに……。
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体と体が激しくぶつかり合う |
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こんなに息が切れるのは、やっぱりタバコのせいかな。禁煙しよう……などと思いながらHaの方を見ると、彼は私以上にバテている様子。ゼーゼー息を切らし、顔はまっ青、今にも倒れんばかりだ。
「僕、ちょっとトイレヘ……」
吐き気をもよおしたのだ。彼はこの日、3回にわたって吐いた。
一方、世田谷レディースのメンバーは全員ケロリとしている。バテて息を切らしている人など1人もいない。
Haは、私たちの信用を失った。
「しょうがねえなあ。土曜の夜のテレビの見過ぎだよ」
安堵感と充実感と疲労感
ラン・パスが終わると、こんどはコンビネーションプレーの練習だ。7,8人ずつ組になって、コートの真ん中あたりからゴールへ進む。男のコーチが守備の側に立ち、これを妨害する。
ボールを落としたら、また最初からやり直し。私たちもやってみた。ただし、私たちには妨害者がなく、ただ進むだけである。それでも、たびたびボールを落としてしまう。全員にボールが渡ってトライしなければ終わらない。5回やり直しの未、やっとトライできた。
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学生部スタッフもがんばりました |
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その瞬間、安堵感と充実感と疲労感に襲われ、私たちは座りこんでしまった。
★☆★
監督の中澤久人さん(41)のお話。
「このクラブは58年4月に発足し、現在高校生から39歳まで35名のメンバーがいます。全国に女子ラグビーチームは約20チームありますが、首都圏ではこのチームだけです。みんな真剣にやってますが、アマチュア特有の悲壮感がなくて、明るいですね」
文:山本裕二(妙蓮寺・大学生)
写真:福田智之(大森)
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