編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏
NO.752 2015.11.14 掲載 
戦争
第9回
  最終回
   如意の功徳
 
                      文:辻村 功(日吉・本誌編集委員・床下の仕掛け人)  
   
                    ★昭和59年10月1日発行『とうよこ沿線』24号から転載

今年の夏、家庭電器メーカー各社は、省エネを売り物にしたインバータ・エアコンの宣伝に懸命であった。家庭の主婦がインバータなる仕掛けを理解しているかは疑問であるが、昨今のCMは、“マイコン酵素”、“ジンタビリチオン”などと、わけのわからぬ言葉で消費者を煙に巻くのが流行っているから、最新式とわかればそれでいいのかもしれない。

 従来のエアコンは、動かすか止めるかの調節しかできず(もちろん自動的にだが)、効率の悪い運転を余儀なくされていた。
 最近の半導体技術を駆使したインバータは、電気の強さや性質を意の如く調節できる仕掛けで、エアコンを最適の条件で運転することができる。

 このように電気に対して如意の功徳がある仕掛けならば、エアコン以上に細かいコントロールを要求する電車も、その功徳にあずかろうというのは自然な発想である。新幹線にしろフランスのTGVにしろ、電車を動かす基本的な仕組みは百年前と同じである。インバータ電車が実用化されれば、それは鉄道技術史上革命的な出来事となる。

 電機メーカー各社は、数年前から電車用インバータを試作し、私鉄の線路を終電後に借りては丑三(うしみつ)時に試運転をくり返し、どうやら実用化の見通しがついてきた。しかし鉄道は巨大なシステムなので様々な制約があり、これまでに国内での実用化(客を乗せて稼ぐこと)は、熊本市電の「しらかわ」号、「火の国」号の2両だけであった。

  


今年の夏、実用化第2号のインバータ電車が登場した。地元・東急の大井町線である。(写真)車体は古い6200形の流用だが、床下の仕掛けはパワー・エレクトロニクスの最先端を行くものである。近い将来、我等が東横線にも本格的なインバータ電車が21世紀へ向けて走る日が到来するであろう。

 如意輪観音は如意宝珠の功徳によって、意のままに万物を動かすという。サイリスタという現代版如意宝珠の功徳によって、意のままに電車を動かす如意輪装置が登場したところで、『電車まんだら』の開帳を終わることにしよう。



 等々力渓谷を行く試作インバータ電車

先頭車両(6202)のみがインバータ電車で、他は在来形電車である。まだ“独り歩き”はさせてもらえない
(撮影:筆者)

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