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先日、横浜落語会で聴いたはなしである。奇抜な落語で人気のある三遊亭円丈の「アダチランド紛争」という一席の中に、「北越谷伝説」なるはなしがあった。主人公は江戸っ子の家庭に育った青年で、結婚して東武伊勢崎線の北越谷に新居を構えるという。それを聞いた両親は猛反対する。
母「トーブ線の北越谷だなんて、そんな“人の道”にはずれたことはしないでおくれ。」
息子「なぜ北越谷に住むことが人の道にはずれるんですか?」
父「東京には人の道は4つしかない。中央線、京王線、小田急線、東横線! これが“人の道”だ」(大爆笑)
トーブ沿線にお住まいの方(円丈氏自身アダチ区の住人である)には申しわけないが、東京近郊の人々が各路線に対して抱くイメージを、実によく表現していると思う。
確かに東横線では、どこかの路線のように車内で高校生がたむろしてタバコをスパスパふかしている光景など、想像すらできない。整列乗車をはじめとする乗客のマナーもしっかりしている。
沿線には大きなギャンブル施設(これはイメージダウンの決定打になる。好例・国鉄武蔵野線)がなく、学校・教育施設が充実している。これらの事実に加えて、田園調布に代表される高級住宅地と文明開化の表玄関ヨコハマのイメージが、東横線の評価を高からしめている原因であると思う。
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東横線が最初に開通したのは大正15年、全線開通の昭和7年から数えても半世紀の歳月が流れた。前に述べた世間の評価はさておいて、今では地域住民の足として、すっかり生活にとけこんでしまっている。それだけに電車は単なる移動の手段としてしか見なされず、車内でのひとときを楽しむゆとりは、なかなか生まれてこないようだ。
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イラスト:川名亜佐子(妙蓮寺) |
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この拙文「電車まんだら」は、筆者が幼少の頃から二十余年にわたる東横線利用の体験をもとに、“電車を楽しむ”という狂気に満ちた世界へ、みなさんをご案内するものである。
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