編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏
NO.737 2015.11.11 掲載 
戦争
 声、ことば、話
第1回
        
 
                        文:秋山和平(元NHKアナウンス室長。大倉山在住) 
   
                    ★平成4年4月20日発行『とうよこ沿線』56号から転載

      東横線は何輌編成?



 「東横線は何輌〜」といっても、車輌の話ではない。「トーヨコセン」と言うとき、幾つのリズム単位に区切って発音しているかということである。

もう15年近く沿線住人として東横線で通勤しているが、仕事柄、気になるのが車内アナウンスである。渋谷を出発するときの車掌さんの決まり文句《東横線をご利用くださいましてありがとうございます》……は、電車の徐行のようにゆっくりと丁寧な発音でいいのだが、その「東横線」を《ト/−/ヨ/コ/セ/ン》と言う人と、《トー/ヨ/コ/セン》と発音する人の2種類ある。
 前者は、6つの単位に拍子をとる、いわゆる6輌編成型、後者は4つに拍子をとる4輌型だ。「大倉山」は「オ/−/ク/ラ/ヤ/マ」なら6単位だし「オー/ク/ラ/ヤ/マ」は5単位、同じく「本屋」は「ホ/ン/ヤ」が3で、「ホン/ヤ」は2単位に分かれることになる。

 私たちは普段、無意識にそれぞれ発音しているが、この違いはその人のことばの履歴を知る上で興味深い。

 そもそも東京語は、伸ばす部分やはねる部分も仮名1文字と同じ長さの1拍と数えるから6輌型だが、全国の方言では4輌型も数多い。
 この違いを指摘した方言学者の柴田武氏によると、東北や九州には4輌型の地域がいくつかあるという。
 車掌さんのアナウンスは東京の通勤ラッシュの中にふるさとの隠し味を、人知れず漂わせているのだ。

 ところで、6輌型の発音は、一見正確に聞こえるが、心得ていないと不自然で、ベタベタする。声のことばは微妙な要素で出来ていて少しの違いで印象は、がらっと変わる。
 
 もっとも近ごろは車内アナウンスがほとんどテープに変わって違いを楽しむこともできなくなった。


絵:曽我二郎

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