編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏
NO.735 2015.11.09 掲載 
戦争
前編
        
 
  文:岩田忠利    イラスト:石野英夫(元住吉)
                    ★平成10年1月10日発行『とうよこ沿線』69号から転載


  コーラの色に似た暗褐色の鉱泉が湧き出る温泉、沿線にあるのを皆さん、知ってましたか? 
 わざわざ遠くの温泉場まで行かなくたって、いつもの街のいつもの銭湯がいつもの料金で利用できるのです。
 コーラ―色のこのお湯、体も心もホッカホカに温まりますよ。さぁ、冬の今、街の銭湯の温泉へ行こう!



   銭湯といえば、連想するモノ

●桶

  戦後ずっと木の桶だった。町の桶屋さんにとって銭湯はよいお得意先だった。吹き抜けで天井の高い銭湯は音響効果抜群、洗い場の桶の音「カラン コロン」がよく響きわたったものだ。

それがいつの間にか、あざやかな黄色に赤い「ケロリン」の文字が入ったプラスティック桶に。この風呂桶を知っている方はかなりの銭湯通。70年の歴史を持つ鎮痛剤「ケロリン」はレトロなパッケージでもお馴染み。東京の銭湯の9割に“ケロリン桶”が置いてあるとか。

●番台

 
一度は座ってみたいと思われる殿方も多いのでは?
 東京の銭湯では平均の高さが130センチ。料金徴収・シャンプー・石鹸などの販売やタオルの貸し出し、気分が悪くなった人やマナー悪い人らを監視する役目を持つ番台も、最近のニュー銭湯ではフロント形式に移りつつある。まことに残念だ。

●ハカリ

 
脱衣場の風物誌でもある。この頃ではデジタル式も多いらしいが、やっぱり銭湯には貫目も入ったアナログでなくっちゃ。

●富士山

銭湯といえば、なぜか富士山の“ペンキ絵”がデンと正面に構え、銭湯の象徴みたいになっている。しかし、関東地方以外ではペンキ絵自体が珍しい。発祥の地は東京。
 最近
“タイル絵”が目立つ。腐食せず、半永久だからだ。それもほとんどが九谷焼だそうだ。

●三助

 涙が出るほど懐かしい響きである。ひと昔前までの銭湯には別料金を払うと、体を洗ってくれたりマッサージをしてくれる“三助”というオジさんがいた。

 湯を流す音とともに三助さんの打ち鳴らす「パンパン」という手のひらの音がなんとも粋に響いたものだった。



イラスト:畑田国男(漫画家・緑が丘)

●ポスター

  小中学校運動会のお知らせ、商店街の大売り出し、商店の店員募集や町工場の工員募集、迷い猫のお尋ね……。どれも手書き文字や手描きの絵、ガリ版刷りもある。入り口・帳場・脱衣場などの壁面に所狭しと。
  どれも地域住民の生活に密着したポスター。銭湯がふれあいの場であったのだ。

●煙突

 

 銭湯の周りの建物は、高くてもせいぜい3〜4階。銭湯の煙突はひときわ高く、遠くから銭湯の存在が一目瞭然、地域の“ランドマーク”だった。

 町の家々を見下ろすようにたなびく銭湯の煙は、朝風呂がもうすぐ沸くことを知らせる“のろし”だ。

煙突と言えば、煙突の煤(すす)はらいに煙突の天辺に登る煙突掃除のおじさんを思い出す。



煙突掃除のおじさんが煙突に

 上記のほかにも、銭湯ならではモノがある。

●のれん ●下駄箱 ●脱衣かご 

●コーヒー牛乳 









上記右下の「松の湯」はその後、廃業し営業していません。




保健所も公認、飲んでも効くと容器持参のお客さんもある武蔵小山温泉
 武蔵小山温泉 清水湯

  テレビドラマ『時間ですよ』の舞台にもなった

武蔵小山の街の中、いきなりといった感じのひなびた造り。誰もが思い描く「銭湯」の印象そのまんまだ。

 創業は関東大震災の年、大正12年(1923年)。3年前ボーリングしてみたら温泉が湧き出てアラびっくり。3代目の川越稔さん(60)は寡黙だが、仕事にかける情熱は人一倍。銭湯の廃業が相次ぐこのご時世に天も味方してくれたのかもしれない。

 
 泉質は重炭酸ソ一ダ質。澄んだウ一口ン茶の色とほのかな香りがいかにも温泉。美肌、神経痛、皮膚病によく効く。ある外科医は病院のリハビリよりよっぽど効果があると言ったそうな。
 とにかく湯冷めをせず、翌朝までほっかほか。美肌というのは、論より証拠。栄子さん(
52)の素肌がツルツルで思わず「娘さんですか」(実は奥さん)と聞いてしまったほどだった。
(文 品田みほ)

 
定休日‥平日月曜(振替休日なし。祝日の月曜営業)

 営業:平日12時〜24時 日曜8時〜24

 料金‥大人460円 中学生300円 子供180円 幼稚園児無料

 品川区小山391(武蔵小山駅徒歩5分) 033780575




城南地区では有名な鉱泉の銭湯

  久松温泉 池上

  営業14時間、湯船につかって歌って踊れる天国
 

間口の広い鉄筋タイル張りビルの久松温泉。まだ昼1時を少し回ったばかりなのに、次々お客さんが入つって行く。1階の男湯を覗くと、浴槽が4つもあり、ガラス戸越しにある露天の涼み台では湯ダコのようなおじさん5人が談笑、まさに裸の付き合いだ。

じゅうたん張りの階段をあがった2階、そこはまた別世界。カラオケから流れる三波春夫のメロディー、舞台で“おはこ”を踊るおばあちゃんたち……。飲み物の持ち込みは禁止だが、食べ物の持ち込みは可。ここは、まさに日頃の憂さも忘れるシニア層の天国だ。
  湯は地下200bから汲み上げたのが昭和30年度、以来涸れることなく湧き出ている黒いお湯。客層は地元客だけでなく、かなり遠方から週1回定期便のように通う常連さんもいるそうだ。
 よく温まる湯で、腰痛・手足の痛み・神経病・リューマチ・術後の療養などに効くと聞きつけた常連さんが多い。(文 岩田忠利)

  定休日:火曜  入浴:朝10時〜夜12時 広間利用1000円
  
  大田区池上
33116 (池上駅から徒歩約3分)
 0337510119



お客さんはみな顔なじみ。番台の奥さんが
次々言葉をかける

 天然温泉 益の湯 

  「やめないで〜」署名運動まであった銭湯

 

「『おばさん、治ったよ〜』なんて松葉杖で通ってきていた客さんから言われた時なんか、嬉しいわねぇ」。
 そう番台で話す久保井安喜子さん(
72)。肌艶も良く、とてもお若い。

昭和29年“黒い清水”を掘り当て、分析するとカリウム・マグネシウム・カルシウムを多量に含んでいた。お陰で病気が治ったという声を次々耳にするようになった矢先、先代が亡くなった。

廃業もやむなしという時、住民が「地域に欠かせぬお風呂屋」と立ら上がり署名運動まで起きたのだ。以来、久保井正雄さん(75)夫妻が力を合わせお客様との会話を大切に暖簾を守ってきた。
 今では池上線沿線、品川などからの常連さんも。タレントの渡辺 徹も売れっ子ビートたけしもやってきた。(文 岩田忠利)

 定休日:木曜 営業:午後4時〜夜11時 

 料金‥大人
460円/小学生180円/
未就学児80円(ただし大人同伴の場合、2人まで無料)

 大田区南久が原2123 メゾン久が原1階(池上線久が原駅前) 0337513003

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