地球最後の恐竜、
コモド・ドラゴンのいるコモド島
8月25日。コモド島。ゴムボートを降りて島内を見渡すと、火山の噴火で造られた切り立った絶壁と巨大な渓谷。高く伸びた木やヤシの木の下に丈の短い草だけ。人の姿も建物も全然見当たらない。シーンと静まり返っています。時折、小鳥の鳴き声が聞こえる。
世界中で、ここコモド島ほど野生動物がいる所は少ないと聞いているだけに、その静けさが一層不気味です。
案内人が棒を片手に林の中の細い道をはいって行く。その案内は現地の若者です。彼が手にしている棒の先は二俣になっている。
「ドラゴンが時々飛び出てくるので、口を開けて向かって来たら、あの棒を口の中へ押し込むと逃げて行くんだよ」
と、何度かここを訪れている仁君(岩田機関長のこと)がこう説明。
地球上に生存する最後の食肉恐竜種コモド・ドラゴンとは、大トカゲです。約1億3千年前に棲息していた肉食恐竜の生き残りで、体重約135キロまで成長する世界で一番大きな爬虫類だそうです。
そんな話を聞くと、私は背筋がゾオーッ、足はブルブル、地に足が付かない感じ。仁君にすがり、ふらふら歩き出しましたが、雑木林や草むらがガサガサ、ゴソゴソするたび「キヤ〜、出たぁ!」。仁君の話を聞いてから、俄然みんなの歩調が速くなりました。
道は割と平坦ですが、物凄い暑さです。そこをじっと辛抱して歩くこと50分、柵を巡らせた場所に着く。
下の谷をのぞくと、いました、いました! あの大ドラゴンが群れをなして……。大・中・小、さまざまのドラゴン。大は3、4メートルほど、小は1メートルほど。
岩石と見間違う灰色の体で舌をチョロチョロ、真っ赤な眼光の鋭さ。見物の私たちがいる方へ登って来たくても切り立った崖を登れず、次々折り重なり合い、動き回っています。
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体長4メートルもある肉食恐竜がこの地球上にいるんですね。こんなのに突然出遭ったら、あなたならどうします?
このドラゴンに防御用の二俣の木の棒を向けたら口にくわえて振り回したりして… |
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仁君がこう話すのです。
「きょうは、とくに元気だ。あっ、あちらを見て! いま、みんなで水牛を食べている最中だぁ〜! 週2回、生きたヒツジや水牛を与えるのです。私たちが来ることを事前に知らせておいたから、きょうはスペシャル・メニューのようだね。眼がキラッと光っているでしょう? お腹が空いていると、眼もドロンとして元気がないんだよ」
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生きた水牛をむさぼるドラゴンたち。まさに恐竜の本性のままに…
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この日は早朝、バードウオッチングがあり、希望者の少数が先にコモド島に来ていました。その連中がウオッチングを済ませ、私たちに合流し、口々に、
「ドラゴンに2度出遭って、びっくり仰天したぁ! でも、案内人が棒を口の中に突っ込んだら逃げて行っちゃったわ」
あー、私がその場にいなくて良かったあぁ〜。ドラゴンは野生の鹿、水牛、牛などを餌食にしているのだそうで、とても人間一人で訪れる島ではありません。
午後は珊瑚礁のドコモ島に行く。ゴムボートが海岸に近づくほどに鏡のように澄んだ海底の珊瑚、海草が手に届きそう。ボートの底が珊瑚をこする音で停止。その珊瑚の上を無残にも踏み歩くと、2メートルほど先が海岸です。
濃淡のブルー、ピンク、白のコントラストが息をのむほど美しい砂浜。島の防風林近くまで波に押し寄せられた小さい珊瑚たちは、船や私たち人間に命を絶たれた屍(しかばね)なのです。
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ドコモの森は生きた心地のしない“恐怖の世界”でしたが、海岸線は息をのむ美しさの楽園“別世界”です |
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この日はハードスケジュールで、4時からまたボートで島巡り。はるかな島の岩上に色鮮やかな鳥を発見、仁君から借りた双眼鏡が役立って、空に舞う大鷲もゆっくり観察できました。
私たちのボートの近くに鯨が姿を見せたのには「ラッキー」とみんなで大喜び。ボートが5隻も出ていたのに鯨を間近に見たのは私たちだけだったとは帰船してから知りました。
人気作家、北杜夫先生も船客
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現地の子供たちと一緒に右手前が「どくとるマンボウ」こと、北 杜夫先生、後列右は岩田仁機関長 |
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手織物など手工芸品の島―ロンボク島
8月26日。ロンボク島。午前中は大津さんのレクチャー。これから訪れるロンボク島の歴史などのお話です。
ヒンズーのジャワ人が定住した14世紀に島の歴史が始まる。17世紀まではイスラム教の信者のマカッサル人との領土を賭けた戦いが続く。現在は島民の8割がササック人で、織物、篭、玩具などの工芸品が重要な収入源とか。
美しいレンバール港に入港。バリ島に似て、草や木がよく繁っています。
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青い海、白い砂浜、緑の森と山、自然豊かなロンボク島 |
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港からバスで30分ほど走り、寺院をいくつか回る。再びバスで20分、ササック人の織物の村へ。
13、14歳くらいの少女たちが織る織物が有名。幅2メートルほどの道路の両側に手織り機がずらりと…。
少女たちはなかなかの美人ぞろいで外人客が盛んに話し掛けますが、言葉が通じません。笑顔がその答え代わりで、織る手は忙しく動いています。柄、色彩ともバリエーション豊か、他の島のとは一味違う。
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見学者が周りに居ても、黙々と手足を動かし織物に専念する少女 |
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展示館には少女たちの汗の結晶がところ狭しと並び、私たちの目を楽しませてくれます。
明日、27日は「インドネシアン・カクテルパーティー」。全員が当地の品を何かしら身につけて出席することになっているので、私はパーティー用にラメ入りの華やかな布を買いました。8万ルピアを4万5千ルピア(2500円)に、また値切ってしまいました。
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展示館には草木染めのシックな布地が整然と陳列 |
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帰路はナルマダの「夏の王宮」に立ち寄りました。広大で豪華。庭園内に王、王妃、王子用と3つの大プール。王妃用の“若返りの泉”がある寺院などが点在。表門を入った所に外来者用のトイレがありました。
見た目は洋式トイレなのに便器のすぐ横に水槽があります。うむ、うむ、この備え付けの柄杓で用が済んだら便器の中へジャー、ジャーとやるのか。その通りにやってみると、コンクリートの床は水浸し……。それでも当地ではハイクラスらしく、有料トイレで5百ルピア(25円)。このお金、現地人の何日分の収入に相当するのでしょうかね。
リンサール寺院を観てから、この日の最終スケジュール、スウェタの市場をゆっくり見て回りました。粗末な木造の建物内はほとんどが香辛料のお店で、緑、赤のトウガラシが山積みです。なかには10センチ以上の大きなものも。他は名も知らぬ種々雑多な木の実など、初めて目にする物ばかり。 私は白と黒のコショウをお土産に。道の両側にもゴザや布を敷いた上に香辛料、バナナ、野菜、果物、工芸品などを並べ、女性たちが客を待っています。
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賑わうスウェタの市場通り

道端でも女性たちが香辛料を売っています
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屋台ではバナナに衣を付けて油で揚げたもの、「バナ天」が結構売れています。私も好奇心で買ってみましたが、お世辞にも美味しいとは言えない味。
タバコを切らしたので現地製(それしか 売っていない)を一個買い、ひとくち吸って「な〜に、これ?」。砂糖入りで甘〜いのです。その味覚について仁君が、
「こっちのタバコはどれもこれも砂糖入りなんだよ」
そういえば今回は東南アジアツアーとあって船の食事もすべて砂糖入り。日本では大の甘党の私がどの料理を食べても甘〜いのですから、その程度はハンパじゃないのです。
<次頁に続く>
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