編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.715 2015.06.29 掲載

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NO.2

     オーストラリア海上 14日間の船旅

       日本郵船・探検船『フロンティア・スピリット号』

   島巡り、船内のイベントで多忙

            
    取材・文:鈴木善子(本誌編集次長)    
  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”

   掲載記事:平成5年3月1日発行本誌No.58 号名「枳」

    入港時の歓迎

 島々へ渡るときはゾディアック・ボート(ゴムボート)で行きますが、大波で大揺れのボートへ本船から乗り降りするときのスリルは満点。そこは昔のおてんば娘、海中に放り出されることもなく、大いに楽しみました。
 終日航海の日が2週間のうち4日間ありましたが、退屈どころか、横浜の留守宅へ便りもできないほど忙しい。
  7階ホールで映写会、各界専門家の講師による数々のレクチャー、乗船スタッフ方出演のファッションショーなど盛り沢山のスケジュールで、船内施設のジム・プール・サウナ・カード室・図書館などを利用する暇もありませんでした。



本船から乗り降りし島巡りするときはゾディアックボート(ゴムボート)で。大波のときはボートが大揺れ、スリル満点です

 ホバート港に入港したときには、上下真っ赤なユニホーム姿の少女合唱隊が数十人、何曲も歌って、わがスピリット号を歓迎してくれました。
  バスによるメルボルン市内半日観光では、森の中の色鮮やかな原色のインコたちが私たちの肩や掌の上に降りて来る光景、これがヨーロッパ風の重厚な建物が並ぶ落ち着いた街のたたずまいとともに深い感銘を受けました。

 シドニー港は「世界の3大美港」といわれるにふさわしく、スピリット号入港の情景は素晴らしいものでした。赤い消防艇が歓迎の放水。その噴水に七色の虹がくっきりと海上に浮かび、空からはヘリコプターが旋回しながら手を振る。あのオペラハウスが、雛壇のような高級住宅街がノッポビルの林立する市街地が絵葉書のよう……。
 サンデッキの最先端で、この景観に酔っていた娘と私は船内放送の注意も耳に入らず。と、突然、背後で「ブウォー、ブウォー……」。入港合図の汽笛の大きさに鼓膜が破れんばかり、体は海上に放り出されるほどびっくり仰天……。



メルボルンの森の中のインコたちが飛んで来て娘の手のひらで餌を食む

     真夏のクリスマス

この日は1224日、ちょうどクリスマスイブ。船内はシドニーで積み込んだクリスマス用品が華やかに飾られ、見て歩くだけで楽しい。

 機関長の仁君を誘ってメルボルンの町を見学に行く。日本とは違った個性的な飾り付けを娘が撮りまくり、中華街で久々のおそば″を食べる。
 真夏のクリスマスイブを初めて体験、パーティは好奇と驚きの一語に尽きます。
 船内レストランに入ると、大きなロブスターが渦高く飾られ、カニ・エビ・種々の魚・ヒレステーキなどなど食べるのが惜しいほど、美しくディスプレイされている。スプリット号の勇姿をかたどった巨大なデコレーションケーキ、数種類のケーキやクッキー、フルーツの山。料理長を中心にコックの皆さんが笑顔で私たちに挨拶している。私は思わず日本語で「ご苦労さま」と御礼を言ってしまいました。夜の船内クラブは、夜が更けるのも忘れて、飲み、踊り、おしゃべりの花が国籍を越えて一斉に咲いたという感じでした。



これはクリスマスシーンではなく、各乗客の誕生パーティー。乗客もスタッフも全員で「♪ハッピーバースディ ツー・ユー」

     寄港した港と島


     鯨、イルカの大群

 船内放送がいつものように英語でアナウンス。よく聴き取れずにいたら仁君から「今、デッキ近くに鯨が来ました!」。
 飛び出すと、あっ、2頭の鯨が船近くを泳いでいる。が、なんとも泳ぎが速い。娘のカメラには、はるか彼方で吹き上げた2本の潮だけが写りました。もっと英語に強ければ、もっとゆっくり見られたのに、残念。

 メルボルン入港の折、日本郵船からフロンティア・クルーズに出向中の堀本嬢が乗船。彼女は英語に堪能な才女です。27日にタスマニア島のホバートで私たちが下船し入れ替えに南極行きのお客が乗船、日本人も18人乗るので彼女はガイド役。女優であの探検家の和泉雅子さんもいらっしゃった。
 クリスマスの日、その彼女から「イルカの大群がいますよ!」との電話で、急いでデッキヘ……。
 いる、いる――。船と競走するかのように何列もの列を組んだイルカが、水しぶきを上げながらピョンピョンと水面を飛び上がってはまた潜り、どこまでもついて来る。



本船にどこまでもついてくるイルカの大群

     外国人から学んだこと

 今回の船旅で痛感したことは数々ありますが、まず第一は外国人の性格的明るさと大らかさ。それは食事や観光、服装の点によく表れます。食べ物にも好き嫌いがなく、何でも実によく食べます。その量たるや、私の眼には驚異としか映りません。それだけにスタミナが違い、雨が降っても傘もささず、暑さ寒さも気にせず、いつも明るく元気に各地を歩きます。

 大らかさは服装にも見られ、流行にも捕らわれません。いつも自分流の服装、たとえばロングとか、日本でしたら一言で「流行遅れ」といわれる型の洋服を平気で着ています。それが不自然でなく良くマッチしているから不思議です。乗客の女性たちは朝食や昼食の時は思いきりラフな服装でお化粧も全然しません。が、ディナーやパーティーの時には「どこのスターか」と目を疑うほどセンスの良いおしゃれで登場します。シドニーの街で日本人の新婚カップルによく出会いましたが、申し合わせたように服装はミニ。流行に敏感な日本人と無頓着な外国人の差を見せつけられたような気がしました。

 つぎに感じたのは、船旅は飛行機などで行く観光ツアーとは全く違う醍醐味があるということです。船は “移動するホテル”。その中で親切なサービスを受けながら異国の人たちとの共同生活でいろんな知的感動を体験したり、ボートで未知の島々に渡るなど日頃経験できない冒険ができるからです。
 生涯忘れられないような今回の体験は「70歳過ぎの私にもできるのだ!」と私の今後の余生に大きな自信になりました。これがまた、今の私の仕事にもプラスになると思います。

 今回日程の都合で南極まで行けませんでしたが、将来はフロンティア・スピリット号でぜひとも南極行を実現したいものです。

                <次頁に続く>




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