編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.714 2015.06.29 掲載

        画像はクリックし拡大してご覧ください。

NO.1

     オーストラリア海上 14日間の船旅

       日本郵船・探検船『フロンティア・スピリット号』

   知的感動のクルージング

              
取材・文:鈴木善子(本誌編集次長)  
  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”

   掲載記事:平成5年3月1日発行本誌No.58 号名「枳」


世界の秘境を観光して回る「世界で最新・最大の探検クルーズ客船・フロンティア・スプリット号」。非常時に備え、ヘリポートがある唯−のクルーズ客船


 客船の旅は「究極の旅」という言葉だけは知っていましたが、実際に乗ってみて、体験した私は船旅の楽しさ、素晴らしさを初めて知りました。
 遠い昔、ブラジル丸で神戸から横浜まで船内1泊の経験はありましたが、2週間の船旅は生まれて初めて。


   英語オンチの二人旅

  成田空港からオーストラリアのケアンズまで8時間弱。この日はホテル泊り。翌日は再び空路で2時間、パプアニューギニアのポートモレスビー着。港までは車で20分。

 「あ、船がいた! なんと大きい、そして美しい船だろう! これが日本郵船のあの有名な探検客船 『フロンティア・スピリット号」か……」
 驚きと嬉しさで胸がいっぱいになってしまう。タラップ下では、この船のチーフ・エンジニア(機関長)の仁君がホッとした様子で出迎えてくれている。
 彼は私の娘婿の岩田忠利(本誌編集長)の弟で、仲人親の私には息子みたいなもの。彼がいるので高齢をも顧みず、船に乗る気になったのですから、道中の不安も一度に吹き飛んでルンルン気分でタラップを上がって行きました。



本船の岩田仁機関長(右)の出迎えで、ルンルン気分で船に乗り込む私

 船内の清潔さ、豪華さ、設備には、ただただ驚くばかり。ツインベッドのキャビンは3階から7階まで82室。最大旅客定員184人、乗務員約90人ですから、姉妹船『飛鳥』よりは小型です。娘と私の部屋は5階。設備の良さはホテル並み、この快適な船内で過ごす2週間は、果たしていかがなりますことやら……。
 というのは、乗務スタッフは15カ国の国籍の人たち。旅客は私たち日本人5名だけ、他は全員外国人です。耳に入ってくる会話、船内放送などすべて耳慣れない英語ばかり。外国語オンチの私はひしひしと押し寄せる不安感のなか、一夜漬けの娘の語学力に頼るほかないと覚悟を決めたものです。



日本人乗客は甲板に集まったこの5人だけ。残る170人ほどは世界15カ国の外国人客。写真右から2番目が岩田機関長中央が最長老の私、隣が娘・岩田ひろみ

    船上はまさに龍宮

 ともかくも、船上生活は始まりました。4階のダイニングルームで乗客全員が一緒に3度の食事をいただくのですが、メニューの豊富なこと! 毎食、何種類もの飲み物、パン類やケーキ、フルーツ・デザート……これを好きなだけ食べられる。さらに好みのメニューをオーダーすれば調理して出してくれる。ウェイターも全員が外国人ですが、どの人も親切で心暖まるサービスぶり。

 夜はディナー。私たち日本人5名は殆ど毎夜、チーフエンジニアの彼のテーブルへ招待していただいた。
 キャプテン(ドイツ人の船長)やホテルマネージャー(ノルウェー人)などからの招待では外人客もご一緒で、身振り手振りでも心は結構通じるもの。



“機関長テーブル”に招待された全員集合の日本人乗客と乗務員スタッフ。中央が私、左に娘の岩田ひろみ、右に岩田仁機関長







  


 こうした楽しいディナーは毎夜、延々2時間半くらい続く。
 この後がまた、一日のハイライト……。席は
5階のフロンティアクラブへと移る。生演奏の軽快なリズムに迎えられ、各自、思い思いの席に着く。各種のお酒がそろっているが、飲めない私と娘はもっぱらジュース。ダンスが始まる。外人は馴れたもの、どんな曲でも見事に踊りこなす。船長はダンスの常連で、金髪のボイン女性をお相手に毎晩、私たちを楽しませてくれる。ここは飲み、踊り、談笑と、時の過ぎるのを忘れるまさに龍宮≠フ世界なのです。
 遊び疲れて部屋へ戻り、シャワーを浴び、ベッドヘ。少々の船の揺れは揺りカゴ代わり、心地よい眠りへ誘ってくれます。

   自然豊かな島巡り

 この船『フロンティア・スピリット号』は世界の秘境を観光して回る世界で最新・最大の探検クルーズ船≠ナ、8000海里も無寄港航海ができたり、厚さ1メートルの氷を砕きながら氷海を航行できる超能力をもった船。と、機関長の仁君から教えてもらいました。
  この船は北極、南極、アマゾンへはすでに何度も航海、その道中、一般観光地とは一味違った国々や島々を巡ります。そこで、今回寄った島の体験をいくつかご披露しましょう。
 773年前、英国人・船長クックが難破してこの地に住みつき、町が造られたという「クックタウン」、ここは当時の生活を偲ばせる素朴な島です。
 火山の噴火でできた「ヒッチンブルック島」は白砂の浜で150種類以上の鳥が棲む鳥の楽園=Aダイビングのメッカで知られたのどかな島。「ウイットサンディー島」の自然動物園ではカンガルーや珍しい鳥類が私たちの後を付いてくるので、一緒に遊んだり‥‥。夜行性のコアラだけが木にすがりついてお昼寝中だったのが残念でしたが…。



白砂のヒッチンブルック島



ウイットサンディ島では私の足元に寄ってくるカンガルー

 珊瑚礁の島「レディ・エリオット島」は、珊瑚礁の化石で、真っ白い美しい浜辺。足下の珍しい貝を拾っていたら「1個でも持ち帰ると、この島では1万2千ドルの罰金ですよ」と通訳さん。この島も鳥の楽園で、手の届く高さの木々の枝で巣篭りしている鳥たちや雛のいる巣もたくさん見受けられます。広〜い道を歩いていると、突然、爆音が……。見上げると小型飛行機がこの道へ降りてくるようだ。誘導者もいないのに、勝手に着陸する。やがて機内からダイバーたちがぞろぞろと出てきたのには、びっくり! 実に、のんびりしたものです。

 「フリンダース島」は沖に停泊した本船からボートで約1時間。バスに乗り、さあ、行けども行けども車窓の景色は見渡すかぎり大牧場のパノラマ。
 牛、馬、羊、七面鳥などの大きな群れも、ほんの一握りにしか見えない広さ。人家も車も見当たらない。とにかくバカ広い牧場ばかりの島です。乗船13日目、この島で初めて外食しました。現地の人たちが用意してくださったメニューは直径20センチほどのジャンボなハンバーグ。牛肉、とうもろこしなどを野外の鉄板の上でジュージューと豪快に焼く。スライス食パンの上に獲りたての大きなロブスターを無造作にぶつ切りにしたものをのせて食べる。何匹分も食べる外国人がいたりで、やはりエビは洋の東西を問わず、人気が高いものですね。
 ほかにも西部劇そのままの「ブラック・マウンテン」もありますが、紙数の関係で割愛します。
              
<次頁に続く>

 

「とうよこ沿線」TOPに戻る 次ページへ
「目次」に戻る