編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.712 2015.06.28 掲載 
NO.9

   結婚サギの巻               
  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”

   掲載記事:昭和59年5月1日発行本誌No.22 号名「槇」


アルメル・マンジュノ

(フランス人、日吉在住)

NHKラジオ・
フランス語講座講師


アテネフランセ・
フランス語教師

 今回は、皆さんを快楽の街に案内するかわりに、新聞の3面をしばしば賑わす日本独特の「犯罪」について書きたいと思います。いずれにしろ、いつものテーマからそう掛け離れたものではないんですよ。だって、男と女のちょっと面白い関係の話なのですから。




フランス語には訳せない「結婚サギ」


  西洋人の好奇心をそそる事件

 「東大卒の医者の卵と称する男が、結婚をエサに、十数人の女性の金と肉体を……」「50歳過ぎの女性が再婚を約束した男性に全財産を持ち逃げされ……」。
 こうした事件は、日本人の目にはありきたりのものかもしれませんが、私も含めて多くの西洋人の好奇心をそそります。


私個人の経験からしても、フランスでこれに類似した事件が起こったのを聴いた事がありませんし、またまた、フランス語には、「結婚サギ」をひと言で表す言葉もありません。
  なぜ、日本では、こうした詐欺師が成功を収めているのでしょう。私は本質的に2つの原因があると思います。

  結婚を最優先に考える日本女性

まず第一は、日本人女性の結婚に対する姿勢です。日本の女性は、人生前半の目標は結婚である(人生後半の目標はマイホーム)、と固く信じているようです。
  また、両親をはじめ彼女をとりまく人達も、結婚は、幸福(少なくとも物質的幸福)の必要条件と考え、結婚を勧めています。
 そうなるのももっともなのです。なぜなら、日本では女性の賃金が男性のそれよりもかなり低く、女性は経済的にだれかの扶養を受けざるを得ないからです。つまり、結婚は一種の保障であり、老後の日々をゆるぎないものにする効果的な手段なのです。さらに、日本の社会制度はあらゆる面で夫婦を優先させているので、子供を育てながら女ひとり(億万長者の未亡人は別にして)でいるのは、.多大な困難が伴うのです。

 ですから、日本女性がお婿さん探しに狂奔するのも驚くにあたりません。とくに、もうお肌の曲がり角に来ている女性は、健康で働き者の男性ならだれでもいい、と思っているようにしばしば見うけられます。一方、詐欺師のほうは、親切で口説きのテクニックを心得ているときているんですから……。

  信頼に基づく日本の人間関係

 第二の原因は、日本では人間関係が基本的に相互の信頼に基づいているので、他人を警戒する習慣がないことだと思います。


もちろん、それが日本の日常生活を快いものにし、フランス人と比べて日本人の表情を穏やかにしていることは分ります。しかし、あまりにも他人を信じようとするあまり、無邪気なお人好しになってしまうのではないでしょうか。


 さらに驚かされるのは、あどけなさや無邪気さが、若い女性の上品な魅力の一つと考えられていることです。それが、日本女性の長い意味での特徴となっている事は否定しません。でも、この20世紀末の世の中で、あまりにも無邪気な女性には、大きな危険が待ち構えているのです。特に、良心のかけらもない結婚詐欺師の餌食になる危険が……。

 フランス女性を騙せたらたいしたもの

 それに比べて、フランス人女性を騙すのは難しいでしょう。他人は疑ってかかれと教えられ、人が自分と結んだ約束や他人の誉め言葉を正確に受け取れるように育てられているからです。それに、フランス人女性は、あまり結婚したがっているようにみえません。10年位前から自由結婚(同棲)が−般的になってきて、正式な結婚というワクにはまる事を嫌う若者がふえているのです。

 私個人としては、結婚に反対している訳ではありませんよ。ただ、日本で結婚詐欺があまりにも多いのと、結婚という一言のために会社の金を何億も横領するような大事件まで起きている事にびっくりしています。また、女性としては、被害に遭った女性を、騙されるほうが悪いなどと、嘲笑する風潮があるのは感心できません。結婚詐欺師なんていうのは唾棄すべき人達なのですから。
  私は騙されないわ! きっと騙されないと思います。たぶん大丈夫でしょう……。

  イラスト:石橋富士子(横浜)

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