編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.711 2015.06.28 掲載
NO.8

  新宿のノゾキ部屋の巻

               
  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”

   掲載記事:昭和59年31月1日発行本誌No.21 号名「檜」


アルメル・マンジュノ

(フランス人、日吉在住)

NHKラジオ・
フランス語講座講師


アテネフランセ・
フランス語教師


 「困ったわ、こんどの艶腺漫遊記どうしよう…。もう女の私が行けそうな所はみんな取り上げちゃったし……」。これを聞いた友達が、「新宿のノゾキ部屋は?」と言いますが、前に渋谷で取材しようとして断わられた苦い経験があります。
  でも「もうやるっきゃない」と決心して、行ってみることにしました。




セックスの商人のしたたかさに脱帽


  デパートの試着室を思わせる個室

 教えられたコマ劇場の近くへ行ってみると、あるわ、あるわ、そこいらじゅうノゾキ部屋だらけ。その中から、呼び込みの声をスピーカ−で通りに流している雑居ビルの2階の店に入ることに決め、急な階段を昇って行きました。 ホテルのフロントのような入り口で2000円を払うと、デパートの試着室そっくりのカーテンの付いた個室が5、6個並んだ狭い通路に通され、「ここへどうぞ」と、そのうちの一つをあてがわれました。

 それは80センチ四方位の広さの部屋で、正面に30センチ四方位の窓があって、丸椅子と大きなゴミ箱とティッシュが1箱置いてあるだけでした。

 「ずいぶん狭いのネ。入れるかしら?」「だいじょうぶですヨ。アベックで来る人だって多いんですヨ」 ホントかしら‥…?




  穴から千円札が。すると彼女は…

 狭い個室の中でヒザがアゴにつくような格好で座り、暗い洞穴のような部屋の中をノゾクと、奥の中央にはビデオがあって、壁には〈バストタッチ1000円〉、〈バスト+ヒップタッチ2000円〉という貼り紙がしてあるのが見えました。ハテ、どうやってお金を払うのかと思って見回すと、個室の上の方に穴があいていて、<チップはここから>と書いてあるのに気づきました。ナルホド…。


 まず始まったのは、ビデオでした。つぎつぎと男女が登場して、ヤルベき事をヤルだけのもので、性殖についての記録映画を見せられているような気がしました。

20分以上過ぎてから、部屋の明かりがついて、ミニスカートとブラウス姿の20歳位の女の子が、とうとう現れました。ムード音楽に合わせて踊りながら全裸になる。とその時、千円札が投げ込まれました。彼女はお札が飛んで来た個室の窓を開け、胸を触らせ、しばらくそこで踊っていました。その間、他のお客さんが退屈しないようにビデオはついたままです。

 そのあと彼女は、部屋の中央に寝ころんで、エアロビックスのように足をバタバタさせ始めましたが、誰もお金を投げ込まないのがわかると、ヒョイと手をのばしてビデオを止めてしまい、ふてくされた顔で足の運動を続けました。間もなく明かりが消え、女の子はスッといなくなってしまい、あとには暗がりだけが残りました。
 それは、正味10分位のショーでした。


  日本の殿方はこれで満足なの?

 これで2000円では、ちょっと高いんじゃないかしら。
 私はもう1度お金を払ってまで見る気はしません。でもノゾキ部屋が繁盛しているところをみると、殿方は私のようには思わないのでしようね。
 私が学んだ大学の教授によれば、「人間の瞳孔は、興味あるものを見せられると開く。女性の場合、それが最大に開くのは可愛い赤ん坊を見せた時で、男性の場合は裸の女性なのだ」そうですから、殿方にはあれで十分なのでしょうか。




 外国人記者連は、ノゾキ部屋の成功に性モラルの退廃を見ているようです。確かに、こんな娯楽施設は日本にしかありません。しかし、それを論評するにあたっては慎重を期すべきだと思います。
 このノゾキ部屋も、日本の他の多くのもの同様、やがては消え去る一つの流行にすぎないのではないでしょうか。
 私としては、今回もまた、セックスの商人のしたたかさに脱帽させられました。それともう一つ、最近の日本人は、最新技術を駆使した映像文化人間だと聞いていましたが、ノゾキ部屋のビデオでそれを実感するとは、思ってもいませんでした。

 
イラスト:石橋富士子(横浜)

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