編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.710 2015.06.28 掲載 
NO.7

   浅草のストリップの巻
               
  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”

   掲載記事:昭和59年1月1日発行本誌No.20 号名「松」


アルメル・マンジュノ

(フランス人、日吉在住)

NHKラジオ・
フランス語講座講師


アテネフランセ・
フランス語教師

 日本でお正月と言えば初詣で。浅草の観音様も、お参りの人でにぎわう場所の一つでしょう。
 その浅草に、私の母国フランスを名乗るちょっとおもしろいストリップ劇場があると聞いたので、初詣で出かける皆さんより一足先に探訪してみることにしました。




ストリップ劇場も楽しい“演芸場”


 ベテランぞろいの踊り子、お客さん

 その劇場は、浅草の寄席と同じ建物にあります。噺家さんの写真の横に肌もあらわな女性の看板を見ても驚かないでください。料金は一般1500円、学割1300円。ショーの内容を考えればけっして高くないことを、私が保証します。

 椅子は、デリケートなお尻には堅いようですが、劇場全体としてはまずまず。席についたらすぐ、ティッシュを二つに切って丸め、耳の穴につめ込んでください。そうすればボリュームいっぱいの音楽で鼓膜がピョンピョンにならずにすみます。
 午後の早い時間だったので、ステージの回りには髪の薄い頭が並んでいるだけでした。13号で取り上げた生板ショーとは反対で、観客は若い人が少なく、ほとんどが4565歳ぐらいでした。これは踊り子さんたちの年齢とも一致していました。彼女たちは、メーキャップで皺を隠すのに苦労しているようでしたし、体も少しゆるんでいました。でも肌は、西洋の男性を虜にした伝説的な日本女性の絹の肌だけあって、歳を感じさせない若さがあります。白粉をつけた背中がライトを浴びると、50歳でも30歳に見えました。

  義理堅く脱ぎ続ける踊り子たち

 ショーは、ストリップをはじめコント、歌と変化に富んでいて、まったく退屈させません。
 外国人として最も印象に残ったのは、やはりショーの大部分を占める“和服ストリップ”でした。踊り子は、演歌にのって優美な舞いを披露したあと着物を脱ぎ始めます。真赤な帯が体の回りをまわりながら解けてゆく時のエロチシズム! また観客の一人に帯の端を持たせ、体をくるくる回して、最後に着物がハラリと落ちる時のあの興奮! 1枚目の着物を脱ぐと、その下にまた帯があって、その帯をまた解いて……。西洋には、日本の帯にあたるようなものがなくて、本当に残念。

生板ショーと違うのは、踊り子が場内の雰囲気を盛り上げようと努めていることです。とくに、任侠歌謡曲にのって女剣劇のスタイルで登場した55歳ぐらいの姐御は、格別の陽気さと体の柔らかさを発揮して観客をわかせていました。
 と、その時、彼女が私に「前にいらっしゃいよ」と呼ぶではありませんか。まさか日仏裸の共演をやらされるのでは、と全身の血が逆流するほどドキッとしました。でも、握手をして、真赤になっている私を観客に紹介しただけでした。やれやれ助かった!


 

 終わり近くなって、一人とても若くてセクシーな子が、黒ずくめの衣裳で登場しました。彼女だけは、ファッションモデルとしても通用するほどの見事な体をしていました。でも私は、しおれた体の先輩たちの方に惹かれました。彼女たちは、肉体そのものでは若い人にかないませんが、長年の舞台経験でつかみ取った芸人としての何かを持っているからです。
 最近は、同じセックス産業ならもっとお金になるトルコ(風呂)の方がいい、と言う娘さんが多いので、若い踊り子は少なくなり、年取った人だけが義理堅く脱ぎ続けているようです。


  

  初詣での帰りにはストリップへ!

 どうしてここにフランスという名前を付けたのか、今でもよくわかりません。ショーの内容はすごく日本的でした。
 ともかく、今回は艶腺漫遊記を始めて以来、オカマショーと並んで楽しい取材でした。ここはストリップ劇場というよりは、演芸場といった方がふさわしいような気がしました。

初詣の帰りに、井上ひさしやビートたけしを輩出したこのエロスと笑いの殿堂に行ってみませんか。

  イラスト:石橋富士子(横浜)









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