編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.708 2015.06.27 掲載
NO.5

  セックス・ショップの巻

             
  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”

   掲載記事:昭和58年7月1日発行本誌No.17  号名「杏」


アルメル・マンジュノ

(フランス人、日吉在住)

NHKラジオ・
フランス語講座講師


アテネフランセ・
フランス語教師

 今回は少々趣向を変えてセックス・ショップを何軒か回ってみることにしました。
 特別ビックリすることは何もありませんでしたが、いくつか面白い発見をしました。また、見るだけならタダですからね。この種のお店は新宿のほうが沢山あるんでしょうが、渋谷で取材することに決めました。




セックス・ショップは大人のキディランド


  日本人は濡れたものがお好き

 セックス・ショップは日本特有のラブホテルとは違ってどの国にでもあるので、全く未知の所へ行くという感じはありません。2、3軒回るうちにどの店にも共通の特徴があることに気づきました。

まず店の造りはどこも狭く奥行がある。そのせいかお客さんは、店の奥に引き込まれるのが恐ろしいようで入口の近くばかりにたむろしています。そして粗末を照明が店全体に薄汚れた印象を与え、よりいっそういかがわしい雰囲気を醸し出していました。さらに、じっとりと濡れた女体を表紙にしたビニ本がズラリと並んでもいるので、じめじめした不健全な感じが充満しています。

私たちヨーロッパ人はこういうのが大嫌い。でも日本人は濡れたものが好きらしいですね。ポルノ映画やビニ本のタイトルを見ると、やたらに「濡れたナントカ」というのが多いですからね。

 このビニ本をよく見ると、性器をもろに見せることが法律で禁止されているのか、どのモデルも一応スケスケのパンティーをつけています。これをチラリとしか見せない伝統的日本式エロチズムに結び付けたらこじつけでしょうか?
 レジの所にいる店番の人は、たいてい弱々しい若い男性か、椅子にドッカと腰をおろした中年のオバンか、そのどちらかです。若い男性の方は、ネクラを絵に描いたようを感じでレジの所にじっとしているので落ち着いて珍品を物色できます。

 

しかしオバサンの方は場所柄にそぐわずネアカで、すぐにしゃしゃり出てきて話しかける。ヒヤかしの私としてはとてもやりにくかった。

 同様に、お客さんの方にも2種類あって、ぶらりと店にやってきて、店員さんと目があわないようにしながら遠慮がちに商品を見ている人と、2、3人で入ってきて、その道の通ぶった物腰で店員さんにレジの下に隠してあるビニ本(ウラ本というんだそうですね)を直接注文する人がいます。

 いろんな発明品があるんですねェ?!

 さて、取材をもう終わりにしようかなと思っていたところ、渋谷の百軒店の中にもう一軒みつけました。そこはまるで大劇場の楽屋か、“アリババと40人の盗賊”にでてくる宝物殿のようで、明るい照明のもとに、沢山の商品が輝いている。

技術先進国日本を反映してか、かなりの数のビデオ(1万〜1万2千円)と隣りの恋人たちの様子を録音するための盗聴機(2万2千円)がありました。盗聴機なんか発明しなくっても壁の薄い日本のアパートは全部聴こえちゃうのにね。他には、各種医療器具、鞭と縄のサド・マゾセット(5千円)、ヤギの目(3千円)、セクシー下着、催淫クリームと香水などなど。もちろん、色々な大きさと形のバイブレーターも。特に男性用のものは頭巾を被ったアラブの女性や聖母マリアを型どったものや、子宝蔵のお札の貼ってあるものまであって、思いがけない所で世界の文化を雑然と吸収してしまう日本人の性格に出合ったような気がしました。
 と同時に、毎度のことですが、セックス産業に対する日本人の寛大さには驚かずにはいられませんでした。

 皆さんも一度いかがですか。面白いオモチャがみつかるかも知れませんよ。それから常連の方、知人にお店で偶然出会った時、『とうよこ沿線』を読んで初めて来てみた、なんてゴマカシ言うのは自由ですが、帰りぎわに、お店の人から、「毎度ありがとうございます」なんて言われて、恥をかかないように、ネ。

 読書のみなさまへ――私は7月から1か月フランスの実家に行きます。つぎの号はお休みさせていただきます。スイマセン!

  イラスト:石橋富士子(横浜)

「とうよこ沿線」TOPに戻る 次ページへ
「目次」に戻る