編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.706 2015.06.27 掲載
NO.3

    ラブホテルの巻
              
  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”

   掲載記事:昭和58年3月1日発行本誌No.15  号名「桜」


アルメル・マンジュノ

(フランス人、日吉在住)

NHKラジオ・
フランス語講座講師


アテネフランセ・
フランス語教師

 外人が日本と聞いてゲイシヤ、フジヤマ、サムライを思い浮かべたのはひと昔前の話。今では、ロボットに竹の子族、そして今回取り上げるラブホテルなどを思い浮かべるのです。
 外人の間で評判のいいラブホテルといえば、目黒にある中世ヨーロッパ風のお城の形をした例のヤツです。




世界に名高い日本のラブホテル


  行ってビックリ……手品師の気分

 
東横沿線からは少々外れるけれど、まずそこへ行ってみることにしました。場所がわからないので、目黒駅前の交番へ。
 「アノー、○○ハドウ行クンデスカ」
 「Wellyou take this  way…」
 「英語ワカリマセン」「それじゃ、あなたフランス人でしょ?」
  なんだかああいう所に趣味を持つのはフランス人しかいないと言われているような感じ。ともかく教えられた方向へ歩いて行くと、ビルの林の中にめざすお城の塔が見えてくるし、所々にある矢印付きの看板が誘導してくれるので、すぐにわかりました。

 入り口を入ると、スピーカーから鼻にかかった声で「いらっしゃいませ!」。勝手がわからずマゴマゴしていると、「フロントはこちらです」の声。振り向くと映画館の切符売り場のような小さな窓、そこから305号室のキーを渡されました。お互いに顔を合わせないで済むように工夫されているんですね。

 廊下は薄暗く各部屋の扉は黒く大きくてお城の雰囲気十分。ところが部屋は竹をあしらった純日本風で遊び道具がたくさんあります。ビデオ、カラオケ、バイブレーション付きの椅子、座る所に丸い大きな穴のあいているブランコ。大人のおもちゃと避妊用具の販売機等々……。ベッドと座敷の間には玉砂利を敷いた溝があり、ガラスの橋がかかっています。

 つぎに、ベッドの枕元にあるボタンを押すと、BGMが流れてきたり、天井がす〜っと開いて鏡が現れたり、ぐいーんとベッドが揺れたり、もこもこっとベッドのまん中が盛り上がったり、手品師の気分が味わえます。
  浴室は清潔で、赤い大きな浴槽は快適そのもの。ハッスルしすぎて、おなかの減った人は、1200円でウナ重を頼めます。


   なぜか土産がサランラップ

 フランスでは一流のホテルだってこんなサービスは期待できませんよ。歯ブラシだって置いてないんだから。料金はサービスタイム(朝7時〜午後3時)だったので8500円。メンバーカードとなぜかお土産がサランラップ、それをもらって帰ってきました。
  料金も妥当なところだし、「後学のために一度」と言う方はどうぞ……ただし、なんとなく雰囲気がオジンぽいので、若い人の気に入るかどうかは保証できませんよ。

 後日、渋谷の若者がよく行く界隈のラブホテルも探訪してみました。
 目黒のお城と同じようなものもありましたが、最近建ったものは全く違っていました。入り口で各部屋のパネルを見て好きなものを選べるシステム。明るい廊下、白い壁、落ち着いた色のじゅうたん、ラブホテルらしい道具は何もなく、まるでアンアンかノンノンのグラビアから抜け出てきたかのようです。どうも私がフランスの雑誌を通して知った色々な仕掛けのあるラブホテルはすたれつつあるようです。

    ラブホテル繁盛論

 フランス人たちは、好奇心半分、ひやかし半分で日本のラブホテル・ラッシュの現象を学術的に考察したりします。日本人はあの驚くべき経済成長を達成するために身も心もすりへらしてしまった。だからお膳立てされたセックスに逃避しているのだ、とこんな荒唐無稽な結論を出しているのです。

 私個人の感想は、日本人の性に対する開放性と同胞のセックスまで面倒をみてやりながら、ちゃんとお金を儲ける手際の良さを感じました。家が狭く、3世代同居も珍しくない日本では、プライベートな場所を売る商売が成り立つのは当然で、部屋の飾り付けは単なる流行の反映のような気がします。

 最後に、ぜひ一度行ってみたいと言う方ヘアドバイス。週末の夕方はとても混んでいるので避けてください。フロントで待たされます。ただし、彼(または彼女)を見せびらかしたい方はこの時間帯にどうぞ。

  イラスト:石橋富士子(横浜)




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