編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.705 2015.06.27 掲載 
NO.2

   ポルノ映画館の巻

              
  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”

   掲載記事:昭和58年1月1日発行本誌No.14  号名「橙」


アルメル・マンジュノ

(フランス人、日吉在住)

NHKラジオ・
フランス語講座講師


アテネフランセ・
フランス語教師

 

 冬の寒い日は暖房のきいた映画館に飛び込むのも楽しいことのひとつ。ちょうど冬休みにはアニメやアクション物が大挙して公開される時期ですからね。
 でも、このての映画は子供や若者でいっぱい。そこで私は、女性が客席よりもスークリーンのほうにもっぱら出没する場所、つまりポルノ映画館へ行ってみることにしました。




ニッポン社会の縮図、ポルノ


 

 高級ブティックが並ぶ東横沿線のある街。そこにどぎつい色を使って雫の滴れるほど熟しきった女を描いた看板、それが人目を引いているのを以前から知っていました。
 先日、その古びた建物に勇気を出して入ってみることにしました。入場券900円は自動販売機で買うのですね、ここは……。



イラスト:石橋富士子(横浜)

 ちょうど休憩時間だったのであたりを見回すと、意外にきれい。広い館内にはところどころに若い男の人がポツンポツンといるだけ。やはり女性客は私ひとりでした。会社が終わる頃になると、背広とアタッシュケースのサラリーマンがしのび込んで来ましたけれども。

 さて、場内は暗くなる。私は座り直し、3本立てを落ち着いてゆっくり楽しむことにしました。だって、ポルノがどんなものか、1本だけじゃわからないでしょ。(断じて、私が助平だからじゃないですよッ!)

   知恵をしぼる監督サン

 「ポルノ映画って、出来、不出来があるなァ」というのが、実際に見た私の実感でした。
  1本目は、筋は幼稚で退屈、セリフは月並み、おまけにグロテスクで暴力的。途中で席を立ちたくなりました。でも、2本目からはいろいろと興味深い点に気づきました。
 第1にテクニックに関していえば、監督は観客を退屈させないようにずいぶん知恵を絞っていることです。まずタイトルが独創的で少々謎めいているうえに、よだれが出そうなもの。チョンマゲ大都会、田舎といった、さまざまな舞台設定。


 台所から露天風呂、会社のロッカールームから山の中、と毎回場所をかえた濡れ場シーン。さらに、これがみごとに編集されて約5分おきに観客の性感帯を刺激する。もちろん、抜け目のない監督は、観客が息を抜けるように笑わせる場面も忘れません。

 画面構成の美的完成度はそれほどではないにしても、入場料900円分は十分に楽しめるような気がしました。
 難点といえば、笑わせる部分が少々単調なこと、同時録音でないらしいこと。ときどき不自然に感じる所があるのです。男優がまだ体に触ってもいないのに、女優が「ウ、ウ〜〜〜ン」なんて、あの例の声を上げてしまったりして……。ともかく、へンな場面がありましたよ!

   ポルノの社会学的考察

 第2に、社会学的にみると、ポルノは多くの真実を物語っているような気がしたことです。女はしばしば「活発で、賢く、目はしがきく」というように描かれ、その反対に男は「風采があがらず、愚鈍で不器用。すべての点で・女を満足させられず、女に無条件降伏し、自分を思うままに繰る女の強さを身にしみて味わう」と描かれています。
 これは、ニッポンの男女の現実の姿ではないでしょうか。(「オレは違うぞ」という男性、いらっしゃいますか)。ポルノ映画は、“日本社会の縮図”のような気がしてきました。

 「普通の日本的メロドラマよりも、日本のポルノ映画のほうが面白い」という外人は多いのです。日本の方は、この事実を意外に思うかも知れません。でも実際、若松孝二、田中登、神代辰己、藤田敏八など日本のポルノの映画監督は、フランスの評論家からも認められているのです。
 この冬休み、みなさんもポルノで社会学を勉強してみませんか。





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