――渡る世間に鬼はいない
8月12日 朝10時編集室着。特集の説明書と28号20冊を持って中目黒へ。あるお店に飛びこむ。
「あの〜『とうよこ沿線』という雑誌を編集している者ですが……」「なんだ、客かと思ったら広告屋か。帰った、帰った!」いつもこの調子だ。今日もやっぱりダメか――午後4時。残っているバックナンバーは3冊。
目黒銀座のジーンズショップ「六壺藩」に飛びこむ。「あの−、『とうよこ沿線』という雑誌を編集している者ですが……今回中目黒を特集することになりまして……」「ふ−ん、知らないねえ。社長がいるから話してよ」社長にバックナンバーを見せる。「へえ、おもしろい本だね。で、いくら出せば載せてくれるの?」「あ…ありがとうございますっ!」
渡る世間に鬼はない。改めてそう思った。
――邪念は捨てるべきだった?!
8月17日 電話のベルが鳴った。「ハイ、『とうよこ沿線』です」「あの−、『とうよこ沿線』のバックナンバー、何冊かほしいんですけど……」「ハイ、ありがとうございます」「それから、次の号はいつ出るんですか? 私、待ち遠しくって……」
苦い女性の声だ。うん、本誌の読者なら、きっと美しい人だろう。こんど個人的にお会いしたい。なに、デスクキャップの職権乱用だと!? そんなの構うもんか。などと考えてたら、緊張で声がうわずって「あ、あの−、あなたのために、なるべく早く出しますっ!」と言ってしまった。
そしたら彼女は、「あなたって変な人ね」と言って電話を切ってしまった。ああ、惜しいことをした。
(山本裕二)
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――気がつけば徹夜になっちゃった
9日4日 いつものように、夜8時半に編集室へ。なぜか不気味な静けさが漂っていた。
先輩スタッフの福田君に聞くと、「嵐の前の静けさですよ。高田さん、覚悟してください」
そうか、印刷屋さんに原稿を出してから本になるまで30日かかるから、7月31日を締切りにしたんだ……えっ! 1カ月以上も遅れているじゃん。それで最終締切りを9月1日にして10月1日納品にしたんだっけ。
う−ん、まず何から始めようかな。そうだ。自分が担当している「見上げてごらん夜の星」のレイアウトをしてしまおう! なんたってこの原稿、書くのに3日連続で夜中の3時までかかったもんな、うまいことレイアウトしなくちゃ。レイアウトも終わり、イラストも描きあげ、さて次は何しようかな?
すると編集長が、「高田君、目次のレイアウト、やってくれよ」。へい! わかりました。元気に返事をしたものの、「もくじ」のレイアウトなんか、やったことないよ。訊きたいけどみんな忙しそうだもんな。邪魔できないし、そうか前の号を調べりゃいいんだ。ホイホイッと編集長、できましたよお。
編集長「もう少し見やすくならないか」
アララ、やり直しだ! エーンエーン。でも、がんばらねば。どっこいしょ、ホイできた。ハイ、編集長−。
編集長「うん、ありがとう!」
やった! ついにOKでたもんね。だけど今、何時なの? あれっ、朝5時じゃないか。徹夜になっちゃったよ−。まずい、きょう、仕事だ一!
(高田信治)
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