地価の上昇が大きな社会問題となっている。新聞に折り込んである不動産の広告を見ると、もう1億の大台を越えているのが全然珍しくなくなっている。
あの列島改造ブーム以上ともいわれている最近の地価上昇は、以前から地価の高い東横沿線にとって、他の地域にもまして由々しき問題になっているといえよう。
そこで今回の「ホットライン」では、本号の「菊名・妙蓮寺特集」にちなんだケースとして菊名駅周辺を取り上げ、地価上昇の問題の根幹に触れてみたいと思う。
地価とは何だ?
ところで、地価といっても、普通の商品とは異なり、かたちや環境または上物かあるかどうかで全く異なるため、価額を定めることは難しい。また新聞等で報じられるものにしても、公示価格、路線価等があり、実感としてどうも捉えづらい感がある。
では、公共機関で定める公示価格、路線価とは一体何なのか、ちょっと調べてみることにした。
◆公示価格……地価高騰を是正する意味で、権威ある公的機関が一般の土地取引の指標となるような正常な地価を定期的に調査・公示すべきだという意見を反映して、昭和45年からはじめられた。実際の土地取引の指標とされる公示価格ではあるが、実際に売買される価格(実勢価格)の8割程度といわれている。国土庁が担当。
◆路線価……ちょっとなじみの薄い感じがするが、一時期、新宿タカノフルーツパーラー前の土地が一番高いといわれていたのは、実はこの路線価のことである。
主要道路に面した土地1平方メートル当たりの評価額のことで、相続税や贈与税の税額の算定基準になっている。(別図参照)公示価格のほぼ6割にあたるとされ、調査母体は国税庁である。
実態として菊名の場合
公的機関が発表する二つの価格について調べてみたが、その調査段階でも一つ大きな指標となるのが、やはり実際の取引での価格であることはいうまでもない。
では、実際どのような取引が行われたのか、菊名をケースにとってみよう。
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左下の表を見ていただいても分かるとおり、やはりここにきての事例がとりわけ高いことが分かる。虚カ化商事・尾崎社長によれば、とにかく最近は物件が出ないそうだが、
「感覚として、港北区錦が丘のあたりで昨年の夏頃まで坪100万程度のものが、10月ぐらいから125万円、150万円と、上昇しはじめ、現在では200万円とも250万円ともなっいる」
とのことである。
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菊名駅周辺で随一の住宅街、錦が丘 |
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錦が丘といえば、この地区きっての住宅街ではあるが、それにしても半年たらずで倍以上の値上がりというのは、ちょっと常識では考えにくい。
一体どうして異常なまでの急騰が起きているのであろうか。
サンシャイン250棟分の需要
その原因をたどると、都心のビル需要の高まりに行きつく。外資系企業の日本進出や本社の束京移転などによる都心の事務所不足は深刻である。国土庁の予測によれば、東京23区内の西暦2000年までのビル需要は5000u、池袋のサンシャイン60階建てのおよそ250棟分となっている。
既に開発の進んでいる23区内で一定規模のビルを建てることは、当然熾烈なビルの建設用地の底地探しを引き起こす。地上げ屋が街を徘徊し、また相場を度外視したような移転補償金が権利者に支払われる。
この高額の補償を手にした人たちが、その代替地として都内あるいは最近では田園都市線にまで住まいを求めるようになった。これが地価上昇の根本的な原因となった。
事実、田園都市線のたまプラーザ、あざみ野では、坪300万円とも500万円ともいわれ、これが引き金となって菊名駅周辺の地価が上がったと、前述の尾崎さんは説明された。
需要と供給とのアンバランスが価格において調整されるのは、近代経済学の教科書の通りであろう。
しかし、そこに政策か働いてこそ、現代の経済は成り立っているはずである。政府も、投機的土地取引を抑制するための土地税制の見直しを考えているようであるが、この問題を放置しておくと、単に税金面だけでなく、広く都市形成の基礎をゆるかすとも思われる。
事実、最近田園調布では駐車場が増えているという。営業用資産として土地を運用することによって、節税対策としているからだ。
いったん良好な住宅環境が崩れれば、なかなかもとに戻ることはないだろう。まさに、今、地価の急上昇を都市問題として真剣に受け止め、考えてゆく必要があると思われる。
取材・文:西野裕久
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