編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.515 2015.03.10 掲載 

        

  追跡! 地域問題
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   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”

   掲載記事:昭和61年9月30日発行本誌No.35  号名「槐
(えんじゅ)」

 

   変革前夜の代官山
  ― 旧同潤会アパートの再開発問題 ―


  渋谷から電車でわずか数分とは思えないほど静かで緑の多い代官山駅周辺。しかし、この小さな街に今、異変が起き始めています。
 ここ数年、おしゃれな街として注目され、訪れる若者が増えてきた一方で、代官山駅改築とそれに伴う踏切問題、駅前および旧同潤会アパートの再開発問題、商店街の組織化のことなど、代官山の将来を左右するであろういろいろな問題が持ち上がってきています。

 今回は、その中で特に代官山アパートの再開発問題に焦点をあてて、代官山の未来像をさぐつてみたいと思います。


代官山の街並み、将来の模型


       恵まれた条件の住宅

 同潤会代官山アパートは、本号8ページでも取り上げたように、昭和2年にできて以来、代官山の緑に囲まれてひっそりと息づいてきました。当時、水洗トイレ、自家給水施設もついたこの耐震・耐火の鉄筋住宅は、庶民の憧れの対象であったと言われています。
 運よく戦災による被害も少なく、戦後、土地・家屋が払い下げられてからも、ここは各棟ごとの行き届いた維持管理により保存がなされてきました。そのため、大規模な増築・改築により、個性的に生まれ変わった建物もあるものの、その原型は変わることなく、60年間生き続けてきたのです。



現在(昭和61年)の旧同潤会アパート付近

   再開発論議の起こり

 しかし、そんな頑丈な建物でも寄る年波には勝てず、近年は老朽化の問題がかなり深刻になってきました。漏水や配線・配管設備の修繕費の負担は、年々巨額になってきています。
 また、狭い、駐車場や浴室がないなど、近代的な設備が不十分であることから、権利を持ちながら他へ転居する所有者も増加してきました。その結果、賃貸や空室が増えて管理が行き届かず、荒廃状態となる棟も出てきました。転居せずに残っているのは高齢者が多く、地域としての活力低下を懸念する声も上がっています。
 そんな状況下、建設業者からも、住民の間からも、建て替え、再開の話が持ち上がってきたのです。

 昭和
55年に「代官山アパート再開発を考える会」、昭和58年には発展的に「代官山地区市街地再開発準備組合」が組織され、都市再開発法に基づく積極的な再開発事業が始まりました。昭和60年4月からは、協力6杜を交えた事務所が現地に開設されています。






  

   大規模な再開発計画

構想としては、例のように敷地の南側(東横線線路側)に住宅棟、北側に事務所、八幡通り側に店舗を配置した総合的な施設が考えられており、その中に地下駐車場、プールおよびスポーツ施設、診療所、敬老館などの公共的な施設も含めたい、と検討が進んでいます。これがもし実現すると、最高層部で地上18階、地下2階の豪壮な施設ができ上がることとなり、代官山駅付近のイメージは一新されることになるでしょう。

 補償も含めた総工費は250億円、一斉工事で約30カ月で完成の見込みですが、具体的な着工についての見通しはまだたっていません。



地上18階、地下2階の総合的な高層ビルの構想。総工費250億円

     こんな問題も…

  一方、開発によって旧来の風景が消えていくことを憂う声や、長年住み慣れた家屋への愛着と転居に伴う不安・負担等から建て替えに反対の声も強く、住民の20パーセントは現在も再開発に同意していません。

 また、戦後の払い下げ時に共有地の扱いについて明確な規定がなかったため、実質私有地として使用してきた例が多く、それを含めた土地評価、権利変換にも困難が生じています。
 東京都や渋谷区との調整において、区側の対応が非常に遅いなどの問題もあり、ひと口に再開発といっても長期間にわたる検討と調繋が今後も必要になってくると思われます。

  周辺に高層マンションが林立する中、今の姿をできるだけ保存していくのがよいのか、時代の流れに乗って変革していくのがよいのか、代官山駅改築・駅前再開発の問題ともからめて、私たちも一緒に考えてみたいものです。

 
 取材・文:鈴木ゆうこ / 取材:大塚健嗣

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2013年(平成25年)、36階建ての旧同潤会アパート、「代官山アドレス」



2013.5.17 代官山郵便局前から撮影 岩田忠利




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