緑を保護する二つの制度
500年以上も昔からの古刹である大聖院のご住職、多田孝文さんのお話では、
「別にここの緑は、不売運動をやって残ったという訳ではありません。ただ、横浜市の緑政局の『緑地保存地区』に指定されているので、維持できているのではないでしょうか」。
ここで耳慣れぬ「緑地保存地区」なる言葉について少し調べてみました。
この「緑地保存地区」は、「横浜市緑地保存特別対策事業」の一環として施行されているもので、「保存すべき緑地を指定することにより、民有緑地を保存(条文より)」しようというもの。内容は、土地所有者の申請によって、10年間の契約期間中は、建築物の建造、宅地の造成、木材の伐採等が禁止される代わりに、一旦納入した、固定資産税、都市計画税が報奨金として戻ってくるという恩典があるのです。
日吉駅から近い箕輪町だと、表示価格は20万円前後、税金の重荷は大変なものです。ですから、この制度が緑の維持に貢献しているという、ご住職の話も首肯できます。
また、山林と合わせて、眼前の水田が一層の美しさを引き立てていますが、この水田もまた「長期営農継続農地」という舌をかみそうな名前の制度により保護されています。これは、やはり10年間農耕を続ければ、都市計画税と固定資産税が免除されるというものですが、逆に売ろうとすれば、利子を付けて免除分を返納せねばならないという罰則も設けてあります。ですから、都市近郊農家の高額税金の軽減を目的としながらも、緑の保護の一面ももっているのです。
税制の問題は、なおも……
さて、この緑は、税制面での保護によって維持されている訳です。
しかし、ご住職のお話をさらに伺えば、
「気持ちの上では、ここの人も緑を残したいと思っているのではないしょうか。しかし、次代の方に相続される際には、現在のまま維持されるのは難しいかもしれません」と言っておられます。大聖院については「裏山が境内地となっているので、当分は残るでしょう」とご住職は言っておられましたが、一般の地主の方にとっては、相続の時点が大きな関門となることが予想されます。
元名主で箕輪町内会・会長の小泉彌一さんも、「緑を残せと言われても、税制の問題が解決されなければ」と強く述べられていましたが、依然として近郊の緑はまさに存亡の危機にさらされていると言えます。
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この素晴らしい緑の景色、いつまで眺められるのか… |
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毎月、俳句の会のグループが訪れたり、幼稚園の園児が散歩に来たり、ジョギングのコースになっている、この一見静かな一帯も、嵐の前の静けさとも言えるのかもしれません。
水田に立っていた案山子に、この次来る時にまた会えるようにと祈念して、取材を終えました。
取材・文:西野裕久 / 写真:一色隆徳
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