編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.498 2015.02.26 掲載

       

NO.

  今、日本人が危ない…?           
                                               
 
 

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:平成3年8月1日発行本誌No.54  号名「榛
(はんのき)

   文:小松(現・長尾)ゆかり(最寄駅大岡山)


  仕事を終えて帰ってきた日、シャワーを浴びて一息ついていました。我が家の家の前を通り過ぎるハイヒールの音、そのコツコツと響く音にハッとしました。時計の針は午前時。「日本は平和だな」と私がつくづく思うのはそんなときです。
 ハイヒールの主は、恐らく若い女性でしょう。そんな女性が夜更け一人で歩けたり、街角で拾ったタクシーは間違いなく目的地へ運んでくれる。

 
事件に巻き込まれる無防備な日本人

 かつて日本では水と安全はタダ≠ニ言われていたという。最近でこそ水にお金を出すことが珍しくありませんが、安全についてはまだまだ我々日本人はとても無防備な状態と言えましょう。
 数年前から海外でトラブルに巻き込まれる日本人が問題視され始めています。スリ・ひったくり・置き引き・パスポートの紛失……。実際、海外支店にいる我が社のスタッフも日本では考えもつかないような被害に遭っています


イラスト:俵 賢一
 
 
東南アジアや南の国で若い日本人女性が次々と行方不明になり、何人かは変わり果てた姿となって発見されたという悲しい事件、現地の大使館員の反対を無視して船を漕ぎ出し国際的人質事件にまで発展させてしまった青年グループ‥…。






  危険なのは、若い女性の単身旅行

 でもこの種のニュースが報道されるたび、私は心のどこかで「またか」と思い、同時にどうしようもない苛立たしさを覚えます。
 なぜその国の言葉もできず、知人もいないような所へたった一人で行ってしまったの? なぜたった一人で訪れる国のどこが安全でどこが危険か、偶然通りがかったタクシーに気軽に乗っても大丈夫かどうか、そんなことを充分に調べて行かなかったの? なぜ経験豊かな現地スタッフの忠告に耳を貸さないの? そうまでして飛び出して行くその自信は一体どこから生まれるの?

 添乗員をしている友人が話してくれました。日本人でも特に若い女性が危険だというのです。
 観光地や買い物の最中に声をかけてきた現地の男性をすぐに信じてしまう傾向があるという。
 夜になってもホテルに戻らず連絡もよこさないので一睡もできずに大騒ぎをしていると朝になってケロリとした顔で帰ってきて、
 「昨夜、町で声をかけてきた親切な男性の好意に甘えてその人の部屋に泊めてもらった」
などと言い、さらに、
 「集合時間にはこうしてちゃんと戻って来てだれに迷惑をかけたわけではないのだから、一々うるさいことを言わないで」と怒り出す始末。


 彼女は果たして日本ではそんな誘いに乗るだろうか、たとえ乗っても行きずりの男性を頭から信用することは滅多にないだろうと友人は言います。
 世界一安全な祖国を離れたら注意して然るべきなのに、却って信じがたいほど大胆になって日本ですらやらないことに平気で足を突っ込むとは一体どういうことなのか、友人には理解できないのだそうです。

 数回の海外旅行経験で外国を知った気になり、添乗員の忠告を鼻であしらう旅行者の軽はずみな行動がトラブルに繋がり、やがては取り返しのつかない大事件へと発展する引き金ともなりかねません。そしていつのまにか日本人はひっかかり易いという有り難くない印象を世界に与える結果となるのです。

 必要以上の警戒は旅行の魅力を半減させます。でも事前に調べ、または経験者の忠告に従った上での常識的な注意は旅の魅力を最大限にひきだしてくれるはずです。

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