編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.496 2015.02.24 掲載

       

NO.

必見! これぞ時差対策…?           

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:平成元年10月10日発行本誌No.48  号名「楮
(こうぞ)」

    文:小松(現・長尾)ゆかり(最寄駅大岡山)


 
2本目の映画も終わり、お客様は窓の陽除けをおろしてお休みになりました。
  ニューヨークからの直行便。ビジネスマンに特に人気のこの便は、西風の強い冬場には15時間を超す超大路線です。その薄暗い空間の中で、読書灯を付けたそこだけが浮かび上がって見えます。
 「お休みになれませんか? 水割りでもお持ちしましょうか」
 すると、いかにも働き盛りのビジネスマンらしい壮年の紳士、とたんに、
 「ねぇ君、絶対おススメの時差対策ってのがあったら、教えてくれませんか?」
 
 
    乗務員も時差ボケに苦しむ…

  年柄年中、世界地図の上を往ったり来たりする我々国際線の乗務員は、お客様の目には旅の、ひいては時差克服のエキスパートと映るのでしょう。
 実際お客様は、目的地に着けばホテルに入って次の仕事まで無罪放免の私たちと違って大変です。機内では食べて寝るだけとは言いながら長い時間狭い座席に縛りつけられ、騒音と振動のおかげで熟睡できるはずもなく、到着すればそこは朝。出張者は会議へ、観光者は観光へ、それからの十数時間を時差ボケと闘いながらの行動を強いられるのですから……。
 それでは、乗務員は時差克服の天才かと思えば、さにあらず。どこでも暗い夜が来れば眠り、太陽と共に目覚め、時差ボケなんて無縁の存在という人もいるにはいます。が、殆どはお客様同様、各々それなりの苦労を重ねているのです。そして、いつの間にか幾つかのパターンが生まれました。

 

  例えばまずホテルの部屋でシャワーを浴びて仮眠をとり、夕食時に起き、再びベッドに戻るパターンの人は多いようです。
 日本を出る数日前から睡眠や食事など基本生活を現地時間に合わせ、体を馴らす地道な人もいます。
 眠い時に眠り、眠くない時は起きているという自然な流れに身を委ねるという人は、大抵夜と昼が逆転します等々…。

  時差対策必勝法、あったら教えてぇ!

 で、私はと言うと、これがこと睡眠に関しては実に繊細な神経の持ち主で、当初からありとあらゆる方法を試みましたが、どれも今ひとつ。結局のところホテルに入っても眠らず、濃いコーヒーを飲みながら夕刻まで耐えるのです。
 本を読んでも内容は全く理解できず、編物の目は間違いだらけ。徹夜の後ですから遂には目がかすみ、頭の中がグルグル回るような気がしてきます。そうなったら限界、シャワーを浴びてベッドに横になる幸福感といったら……! が、翌朝寝過ごしてはだめ。ズルズル快楽に身を任せたらその夜、時差ボケという悪魔は容赦なく襲いかかってくるのです。
 そんな訳で時差対策は十人十色。これぞ時差対策必勝法≠ネんてもの、あれば教えていただきたいと常日頃切望している次第です。

 「それにしたって慣れってものもあるでしょう?」
 とおっしゃるムキもありますが、答えは残念ながら
NO
  多少時間の激変に鈍感になる傾向はあるような気もしますが‥‥。仮にYESとしても、多くて月に一度程度、殆どは何年かに一度という旅行者の皆さんに、私たちの時差対策がそのままお役に立つとも思いませんし…。
 まあ、そういう方法もあるのかな、程度に考えて、あとは時間の許す限りご自分なりの克服法を見出せれば、それは幸せなことだと思います。
  ――それでもダメ、何をやってもダメならば、いっそのこと腹をくくってこれみよがしに大きな欠伸をひとつ、「いえねぇ、ニューヨークボケでね」とか「あらま、なんだかすっかりパリ時間に馴染んでしまって……」――とかナントカ…‥。



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