編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.493 2015.02.23 掲載
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  異文化を知る旅           

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:平成2年5月10日発行本誌No.50  号名「柾
(まさき)

   文:小松(現・長尾)ゆかり(最寄駅大岡山)

  エジプトでの私の体験

 かつて中近東へ仕事で行った折、「こちらの人は無礼だ」と、私がひどく怒ったことがあります。
 エジプトでピラミッドに入った時には体中あちこち触られるし、街を歩けば上から下までなめるように眺められる…。そのとき某国でフランス人・スチュワーデスが殺されるという事件があったばかりでした。
 機長相手に不平不満を並べ立ててしまいました。が、返ってきた答えは意外にも「そりゃ君が悪いんだよ。無礼なのは君の方さ」。
 機長の話によれば、イスラム社会の女性、とくに若い独身女性は滅多に人前には出ず、外出時には素肌を包み、男性と視線が合わないように伏せ目がちに慎ましく歩くのが常識で、
 「君らのようなノースリーブにミニスカート、しかも男性を物欲しげに眺めてウロウロするんじゃ無礼もいいところだよ。『触ってください』と言わんばかりだ」――。
 物欲しげに眺めたつもりなどありませんが…。


  亡くなったフランス人女性はテニスウエアーを着てたった一人でホテルのコートヘ向かう途中で事件にあったらしいとのことでした。異郷の地でのテニスウエアー姿など裸も同然。ホテルの中とはいえ、戸外を女一人で歩くなど非常識も甚だしい、と彼は言うのです。

 「日本でやっていることがどこでも通用すると思ったら大間違い。そんなふうだから日本人はどこへ行ってもスリにあったり、殺されたりするんだ。異国で危険な目に遭いたくなかったら、せいぜいその土地の秩序にあった行動をとるよう心掛けるべきだね」。
 同情を期待していた私は、結局大いに反省させられてしまったのです。

 日本の常識は、世界の常識ではない

 〔日本の常識を世界の常識と思うな!〕この言葉を近頃しばしば耳にします。
 国際化時代の今日、日本人は諸外国の文化の違いに無関心ではいられない状況になりました。



 宗教によっては牛肉や豚肉を食べないとか、タイでは〔神が宿る〕といわれている子供の頭をなでることなど神への冒とく行為とされているとか、私自身、機内で体験して初めて本当の意味を知ったことがとても多いのです。これらを無視すれば、激怒されるか常識を持たないものとして軽蔑されるか…。



イラスト:石野英夫

例えばタイの修行僧は一般的には一生独身といわれています。しかも旅行者にとつて困るのは、修行僧には女性は絶対触れてはならないということです。
 街で出会った僧侶が何か落し物をしたとします。何気なく通りがかった日本の女性なら、それを拾ってあげるに違いありません。なぜならそれが日本では常識だからです。ところが、この僧侶の一生はこれで台無しとなり、彼はまた一から修行をし直さなければなりません。

 
たしかに外国の文化・習慣には信仰や宗教に基づくものが多い。そのため私たち日本人にとって理解し難いことがありますが、あらかじめ目的地のガイドブックに目を通しておけば、多くの危険は避けられると思います。
 観光・買物・食べ歩き、これが海外旅行の3つの醍醐味です。これに異文化に接するという貴重な体験が旅を一層楽しいものにさせてくれます。
 それには訪問国の歴史や文化、さらに習慣に少しでも関心を持つことです。今まで知らなかったこと、頭では知っていたけれどよく分からなかったことがやがて見えてきます。
 それだけでも人とは違う、あなただけの有意義な海外旅行の1ページとなることでしょう。

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