編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.489 2015.02.22 掲載 
NO.

   よぉ、姐ちゃん!

             

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和63年12月20日発行本誌No45  号名「柑」


    文:小松(現・長尾)ゆかり(最寄駅大岡山)


   私たちの職業の呼び名は・・・

  国営フランス航空(工−ル・フランス)で長年スチュワーデスを務め、今も現役の福田みな子さんのエッセイ『空の上はいつも青空』を読みました。

 文章の中て、福田さんはご自身の職業を“スチュワーデス”とはせず、“オテス”と書いておられます。オテスとは英語でいう「ホステス」。外国ではスチュワーデスをエアホステスと称する会社も多く、工−ル・フランスでもオテス≠ェ一般的な呼称のようです。

 日本ではスチュワーデス≠ヘ最もポピュラーな呼び方となっていますが、実は私も自分自身を語るのに「私はスチュワーデスです」と言うことに若干の抵抗があるのです。私の会社ではスチュワーデス≠ニは、フライト歴満3年までの「女子客室乗務員」が正式な名称で、私の場合は「アシスタント・パーサーです」と名乗るのが正しいわけです。

 といっても一般的にはこれでは何をしている人間なのかわからない。お客様の目から見れば初々しいスチュワーデスも、少々トウが立ってきたアシスタント・パーサーも、あるいはベテランのパーサーも、チーフ・パーサーもひっくるめて、飛行機に乗っている女子客室乗務員は等しくスチュワーデス≠ニ映っているはずです。



イラスト:赤尾直香

 そこでひじ掛け横のコールボタンを引くのは旅のプロ、仲々できることではありません。
 欧米人なら「ヘイ、ミス!」で済むところを、どうも日本語という奴は不便です。


 それにしても、喉が乾いた、お茶が一杯欲しいな、少し涼しいから毛布を貰おうかな、などという時、折しもスチュワーデスがむこうからやって来る。
 ところが彼女、何を考えているのか、脇目もふらずに歩いていて、一向にこちらの訴える視線に気づく様子もない。


 そんな時、気軽に「ちょっと……」と声をかけられないのが多くの日本人。ものを頼むのに「ちょっと」だけじゃ失礼かな、といって名前を覚えてるわけでもなし、「ちょっと」に続けて口に出すには「スチュワーデスさん」はあまりに長い、舌を噛むような単語です。


 あなたなら、どう呼びかけますか…

 こんな場合、しばしば物議をかもし出すひと言が、「よぉ、姐(ねえ)ちゃん!」なのです。
 どうも私の職場には必要以上に上品ぶりたがる女性が少なからずいるようです。私としては「よぉ、おばちゃん」とやられたら少々気分も害しますが、とりあえず、「ねえちゃん」ならいいじゃない
か、と。しかも彼女が大ベテランの……熟女世代なら姐ちゃん≠ナも上等よ、などと思ってしまうわけですが……。
 いずれにせよ、何人かが「姐ちゃん、だなんて失礼ね」と言う以上、お客様も勇気を出してやっと口にした呼び方で、これからさらに十数時間という長い国際線の機内でスチュワーデスの機嫌を損ねるなんてお気の毒というものです。


 しからば、どうすればいいか……。まさか欧米人を真似て「ヘイ、ミス!」とやるのもどうもキザですし、大年増を前に「お嬢さん!」と話しかけるのも片腹痛い。 私は自分の職業名としては客室乗務員″をそのまま英語に戻した“「キャビン・クルー”というのが一番気に入っているのですが、そんな呼び方をしている人は未だかつて見たことがありませんし、仮に呼ばれても妙なものだろうなぁという気はします。
 やはり一番無難なのは「ちょっと、すみません!」という平凡な奴でしょうか。もちろん、気に入った女性をみつけたら、若い男の方は「ねぇキミ、〇〇さん!」とやってみるのもいいでしょうが……。

 私たちに限らず、働く女性の自意識は年々高くなってきています。伝統的な庶民の親しみこもった呼び掛けも、とんだ波乱を招きかねません。
 ここはひとつ、こちらの自意識を尊重して、皆様、「よお、姐ちゃん」にはくれぐれもご注意を。



  著者 小松(現・長尾)ゆかり

大田区北千束生まれ、27歳。実践女子大卒。昭和59年日本航空客室乗務員部に入社。国際線フライト歴年半。
 現在、国内線アシスタント・パーサー。










「とうよこ沿線」TOPに戻る 次ページへ
「目次」に戻る