編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:伊奈利夫
NO.488 2015.02.21 掲載 

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NO.     淡谷のり子さん

              雪谷 中原街道端「月山プードル」

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和63年11月10日発行本誌No44  号名「楸
(ひさぎ

   文・イラスト/畑田国男(漫画家)
  淡谷のり子
  (姉妹型
♀♀<本人・妹>=AF型)

 明治40年、青森市出身。大田区上池台在住。昭和4年、東洋音楽学較(現・東洋音楽大学)卒業後、歌手としてデビュー。昭和6「別れのブルース」が大ヒット。昭和48年、日本レコード大賞特別賞、同47年、紫綬褒章受章。
 
TV出演、ステージ活動の現役で、「死に場所はステージ」という。その歌声と後進への忠告は衰えることを知らない。芸能界のご意見番。







 
「あれは歌屋よ」といって物議をかもしたのは、ひと昔以上前。
 この頃も、やはり、「歌屋」ばかりですか、と伺ったら、
 「もっとひどくなってますよ。今のはホトンド、カスですよ。流行カス」
 淡谷のり子さんの毒舌は意地悪ではない。本当のことを正直に言っているだけなのだ。
 そして、自他共に認める「女王」なのに、毒舌が高所から発せられたお説教ではないので、第三者の耳にも心地よく響く。
 「青森ナマリだから、私が言う“流行カス(=歌手)”になるわけよ」(笑)
 と、救いを残しているところが、憎い。
 スターを超えた、酸いも甘いもかみわけた、さすが人生の達人である。
 子連れ出勤は、是か? 非か?
 88年の女論を二分した観のある「アグネス論争の火付け役」も、実は、淡谷のり子さんだった。
 彼女は「歌手は夢を売るものでしょ。楽屋でおしめを替えたり、おチチやってたら、どう思います」と、言った。
 林 真理子がアグネス批判を開始する前に、のり子さんはアグネスを「冗談じゃありません。芸が所帯じみてしまう」と一刀両断に斬っていたのである。
「フジ
TV・「おはよう! ナイスディ」87320日放送
 瞳が隠れるほどのアイメイク、舞台衣裳は黒一色、ピアノにもたれて聴かせる歌。決して客に媚びないブルースの女王としては、「子連れ出勤」など議論にならない、甘ったれのタワゴトにすぎない。

      女王は、恋とフルーツで今日も美し

 一度、結婚もしてみたが、4年でサヨウナラ。以後は、恋多き女として知られている。
 男が歌のコヤシということですか?
 「そのときは真剣だから、コヤシなんて失礼ですが、結果そうなっちゃうのね。私の歌は恋の歌だから、恋をしなくちゃ歌えないのよ」
 深くつき合うと相手の欠点が見えすいて、すぐに、キレイにさようならをしてしまう。
 「ガマンができないの、私」
 淡谷のり子は男に頼ったことがない。
 むしろ、「のり子さんに頼りたい」と言って、男どもが近寄ってきたのではないでしょうか?
 「そう。そういうのが多いです。でも、私、頼らせてあげないの。甘ったれは嫌いです」
 頼りも、頼らせもしない。自立。
 昔から、のり子さんは恋人たちから「へんな女」を感じる、とよく言われたという。
 昔の日本の女とは、おそらく演歌の世界の住人のことだろう。
 あるときは、ナヨッとした女らしさを湛え、男の横暴に耐えるような。また、あるときは大らかで男をヒザの上で慰める、頼り甲斐のある母のような演歌の女。
 ところが、淡谷のり子は、演歌の女を超えた、日本人離れした、自立した女のはしりだったのであろう。
 古い男どもには、そんなのり子さんが「ヘンな女」に見えたのに相違ない。

 6メートルはあろうか、という高い高い天井。壁はレンガ。これだけゆったりとした空間は、都内では珍しく、落ち着いた素朴さが、淡谷のり子のお気に入りの「月山プードル」である。
 ボクは評判のチョコレートケーキ。のり子さんは季節のフルーツが沢山のったプリンを頂いた。「んまー、おいしい!」
 とても81歳とは思えない、のり子さんの若々しさは、牛乳とクッキー、それにフルーツをふんだんに召しあがる賜物かもしれない。それに、いつまでも、恋をすること。





 
「恋人は、みんな亡くなりました。相手はいませんけれど、恋へのあこがれは、健在ですよ」
 オールド・シンガーの諸氏、諸嬢と比べて、わが淡谷のり子が若々しく美しいのは、彼女が「過去」にこだわらず、確実に「今」を生きているからなのである。

 流行カス発言、アグネス論争、だけではない。身の上相談の番組で、相談者の女性がビビるほど、ズバズバと切り込んでゆく強い態度は、何事かがあるとすぐに「被害者意識」に逃げ込もうとする古い女を諌める心、にほかならない。
 毒舌ではない。愛情なのだ。

 ボクたちは、ご高齢にもかかわらず、まだステージ活動、TV出演を続けている淡谷のり子の「ギネスブック」的側面に、ではなく、時代の流れをキチンと捉え、かつ、マスコミ人では誰も口にしないような「本当のこと」を吐いてくれる淡谷のり子の精神の自由にこそ、感嘆すべきなのである。

 しかし、こうしてお茶とお菓子を前にして、のり子さんと差しで、芸能界と日本の行く末を語り合えるとは、なんてボクは幸せ者なのだろう。
 流行カスや、アグネスや、女たちには、あれほど辛辣なのり子さんが、ボクにはとても優しいのだ!
 それは、ボクが男だからであろうか。やっぱり彼女が面食いだったからであろうか?
 それとも、「月山プードル」のプリンがとってもおいしかったから、だろうか?



  雪谷  
        レストラン「月山プードル」の巻

 大田区南雪谷2178 0337200077
 昭和56年オープン。中原街道沿いの素敵なレストラン。天井 は悠に2階分の高さがあり、壁面はレンガ造りで、フランス の田舎風の雰囲気を醸し出す。ケーキとクレープは、ティクア ウトも可。ケーキはスポンジに、クレープは生地の薄さに、 美味しさのヒミツがある。
 本格的なフランス料理のほか、ランチなども好評。酵母発酵に 時間をかけたパンも評判。焼き上がりのタイミンクをみて召し 上がれば、サイコーである。

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