編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:伊奈利夫
NO.486 2015.02.20 掲載 

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NO.     小林 早苗さん

               代官山・八幡通り「シェ・リュイ」

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和61年9月30日発行本誌No35  号名「槐
(えんじゅ)

    文・イラスト/畑田国男(漫画家) 写真/出口道和 

  小林早苗(血液型 B型
 

 作曲家、俳優の小林亜星氏夫人。同氏アシスタント・マネジャー。(株)アストロ・ミュージック役員。
 昭和13年、渋谷区代々木生まれ。山脇学園女子短大・家政科卒後、ヘラルド映画・宣伝部、電通、TBS、女性コーラス・シンガーズスリーのマネージャーを経て現在に至る。
 現在は渋谷在住だが、代官山に永年住んでいた





 
中学生の時、映画『パルムの僧院』を観て以来、ジエラール・フィリップのトリコになった。アラン・ドロンとジェームス・ディーンのいい所だけを集めたようなJ・フィリップは、満都の女性のあこがれだった。
 早苗さんは、「彼」が来日した折に、セーラー服姿で会いにゆくほどの熱烈なファン。当時の中学生としては大変な「おませさん」で、彼女の興味の対象は、いつも同級生よりも4、5年上をいっていた。
 この先取り感覚は、いつもフランス映画へ連れて行ってくれたお姉さんの影響かもしれないが、それ以上に生来のものであろう。
 ヘラルド映画、電通、女性コーラスのマネジャーと、彼女の仕事が時代の波に乗って変わってきたのは、運ではなくて、その仕事を選んできた彼女の眼力。そして、現在、早苗さんの選んだ対象が、作曲家・タレントの小林亜星その人であった。

                 ◆◇◆

 小林早苗さんは創立期のヘラルド映画・宣伝部に入社して以来、ずーっと「裏方人間」だったのである。
 当時、弱小だった洋画配給の同社で『忘れな草』『戦場』『太陽がいっぱい』『エマニエル夫人』などの名画、ヒット作を世に送り出してきた。音楽映画の『忘れな草』公開前には小学校の視聴覚教室へLPを持って巡回し、記録的な枚数の団体観賞券を売りさばき、映画興行界に大きな刺激を与えた。当時としては画期的なPR・商法だった。

       テラスへ、アフリカへ、主人と共に

  早苗さんは、いい物を宣伝するのが好きなのだ。いい映画や、いい音楽を、より大勢の人たちに観て、聴いてもらいたい、と望み、企画し、自ら実行する。持ち前の陽気さで、どこへでも飛び込んでゆく。
 ケーキについても同じである。 永年住んだ代官山の近くにシェ・リュイがオープンしたのは12年前。早苗さんはシェ・リュイのプチガトーに魅せられて、友人へのおつかい物に、祝い事に、ことあるごとにこちらのケーキを利用した。
 もちろん、ここ代官山のショップで食べるガトーの味はまた格別。小さな卓は二つだけ。6人で満席という、この狭さが「代官山ファン」にはたまらない。
 ケーキも小さい。フランス菓子の伝統を踏まえて、素材の合わせ方に細心の注意を払い、食べた時のイメージを大切にした本格派、小ささにおいしさがカタく、甘く凝縮されている。
 「ホントに代官山のイメージにピッタリのお菓子」といって、早苗さん、この日はエンジ色も鮮やかな、甘くてすっぱさの凝縮されたカシスのムースを選んだのであった。
 ヒルサイドテラスの陶芸教室、“くらふと滝陶”にも5年間、夫婦一緒に通っていた。
 壺、皿、花ビンなどの作品は友人たちに贈られて好評だったというが、土をいじることが、そして、夫婦二人でそんな時間を持つことが、なによりの楽しみであったという。
 ご主人のレギュラー番組の一つ、「わくわく動物ランド」のロケ隊と一緒にアフリカへ行ったこともある。
 ご主人がダイエットを始めたら、低カロリー和食弁当をスタジオに差し入れる。
 忙しい毎日の中で話題の映画を観る時は、開映時間をチェックして、「銀座で2本、ここでお食事して、また1本」と、一日の観映スケジュールを作るのも早苗さん。こんな日はお二人ご一緒というわけだ。
 
作曲家、作詞家、俳優、タレント、歌も歌うという多彩な才能の持ち主、小林亜星さん

 
まさに「オシドリ夫婦」といった感じだが、「私は一人でも平気ですけれど、主人のの方が一緒に! と申しますので」というあたりが、実情のようである。
 一緒に観た映画、聴いてきたコンサートの話を、秋の夜長を徹して語り合うなどは、仲のよい「友達夫婦」でもあるのだが……。

 
しかし、生来「裏方人間」でなにより、面倒を見るのが好きな彼女は、ご主人に対して、なにより母親的なのではなかろうか、と思う。

 亜星氏は、何にでも好奇心をもつ瑞瑞しい感性をもっている。「子供がそのまんま大きくなってしまった人」と彼女は言う。

 亜星氏は、ことタレント業に関しては、きわめて慎重。
 そんな夫を「おやんなさい、おやんなさい」と勇気づけるのも彼女だけ。オシドリというより
も、友達というよりも、これは母性のノリである。
 シェ・リュイ(Chey Lui)とは「彼の家」「彼の場所」の意味である。早苗さんの「彼」は、夫・小林亜星。

 そこで一つ、これだけは訊いておきたい。
 青春時代の「彼」、ジエラール・フィリップと、今の 「彼」とに、なにか共通点はございますか?

 「あります。ひと言でいえば、デリカシー。そうでしょう、でなければ主人にあんないい曲が沢山つくれるわけ、ありませんもの」
 小林亜星、J・フィリップ、シェ・リュイのケーキのココロは、大人のエレガンス。
 どれもが代官山によく似合う。
 明るくておしゃべりの早苗さんが、フランソワーズ・アルヌール風に見える街。
 代官山のホントの良さは若いもんには分らない。ですよね、早苗さん。







  代官山
 パティスリー トレトール「シェ・リュイ」の巻

 渋谷区猿楽町232 0334763853
 昭和49年オープン。アンティーク・イメージに基づいたフランス菓子の本格派。
 プチガトー・
30種、タルト等、台もの10種。八幡通りをはさんで斜め前にはレストランが。麻布仙台坂、広尾、富ヶ谷にも店がある。市ケ谷店はアイスクリームの専門店。


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