編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:伊奈利夫
NO.485 2015.02.20 掲載 

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NO.    井川 久美子さん

         横浜駅ビル・シアル地下1階「小さな赤い靴」

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和60年8月1日発行本誌No.29  号名「桑」


    文・イラスト/畑田国男(漫画家) 写真/出口道和 

井川 久美子(本名・東福久栄)(おひつじ座・O型
 
昭和39年生まれ。現在、テレビ・舞台などで女優、レポーターとして活躍中。
 
 横浜市立斉藤分小、栗田谷中と進んだ“沿線っ子”。戸板女子短大英文科卒。
 芸能界入りのきっかけは、渋谷でスカウトされたという東横沿線に縁が深い人である。


 
「スタッフは私をヒトに紹介する時、『根性だけはありますから……』って言うんですよ」と不服顔。
 「美貌が取り得とか、演技力があるとか、もっとホメる所はいっぱいあると思いませーん?」
 テレビ「スチュワーデス物語」では、板見トシ子役を熱演した。かの話題作は「物語」以上に現場が過酷だったようで、20人いた訓練生役の女優たちのうち、半数は実際にリタイア。
 そんな中で久美子さんは最後までガンバって、日本航空から表彰されたという。その根性ユエに、である。

         ◆◇◆
 自ら「美貌が取り得……」など、なかなか言えたものじゃない。でも、彼女の場合、許せてしまう。ホントに美しいし、明るいし、山城新伍に、「お前ほど屈託のない女は見たことかない」と言われたほどのアカルイおしゃべり。
 「昔から男の先生にはみんな可愛がられました。その分、女の先生からねたまれましたけど」。ケロリと言った。
 短大在学中に、モデルやピンナップガールを経験し、若い男性たちのアイドルだった。以後4年、テレビに、舞台に、CMに、大活躍。今、井川久美子は伸び盛りである。

        禁断のタコヤキ

  やってみたい役、を訊いてみたら、即座に、「親の喜ぶ役」だって。
 とにかく脱ぐのはイヤだそうで、もしどうしても脱ぐ時は、「監督は、スピルバーグか、黒沢明かで、文芸作品の、主演に限る」のだそうな。あのねー」
 芸能界の人からも、みんなに可愛がられるが、口説かれたことは皆無だという。
 彼女の話の中は「父や母」がヒンパンに出てきて、彼女の背後に両親のイメージが浮かんでくる。口説く立場からいって、これは大変やりにくい。井川久美子は、お嬢様なのである。

 ケーキを注文しよう。
 彼女は当店の御常連で、迷わずに、ミルフィーユと、チョコ・生クリームのムース、トランシュを指名した。
 優雅にフォークをつかい、ケーキを口に運ぶ。この時、初めて会話がとぎれ、一瞬の静寂が生まれた時、「お嬢さま」は変貌した。
 妖艶なのである。しゃべっていた時は女子大生のようにメチャ明るかったけれど、うっとりとケーキを食べる彼女は実にいい。「おんな」 になっていた。
  ケーキ美人、なのである。
 ボクは自分のケーキを食べるのも忘れ、しばし彼女に見惚れていた。
 昨年、久美子さんは、テレビ特番で「南北アメリカ大陸11か国縦断」のレポートをした。その中で彼女が心掛けたことは、なんでも身体で感じてみること。
 カナダの湧き水に手で触れて冷たさを知り、すくって飲んでみた。アラスカの、メキシコの、ペルーの、チリの大地の肌触りを、伝えようと努力した。
にわか仕込みのスペイン語を、持ち前の根性でカバーしての体当りレポートは大成功に終わった。
 2か月半の取材期間中、彼女はスタッフから「ケーキ禁止令」を命じられた。「久美子はケーキを一度にたくさん食べるから、すぐブタになる」と思われていたからである。
 実際、
1か月で5キロも太ったことがあったのだ。
 しかし、せっかくやってきた外国である。彼女は、各地のホテルで一人になった時、ルームサービスでこの「禁断の洋菓子」を持って来させてこっそりと……。



 
で、各地のケーキのお味はいかがでした?
 「食べてる時はおいしいんですよね。でも、アップルパイにしても、作りおきのパイで、みんなシナーッとしてたから、食べ終わってからは、今いち、って感じでした」
 その点、当店「プチ・フルール」のケーキは食べてる時も、食べ終わってからも最高。

 「みてみて! このミルフィーユのパイのサクサクしてること。『今いち』どころか、『もう一つ、ちょうだい』って感じでしょ。その日に作ったものしか置いてませんからね」
 と言っている間に、彼女はミルフィーユを平らげて、二つ目のトランシュをまたペロリ。「ここのケーキなら、いくつでも食べられるんです」とまた、ショーケースの方を眺めている。
 もう止めてください。ブタになったら、マネージャーや全国のファンに怒られてしまう!

 お別れの時間が迫ってきた。

 「デートの記念に」と久美子さんはボクのために、特技「顔の中のタコヤキ」を作ってくれることになった。
 親指と人差し指で丸をつくり、可愛いホッペをクルリとつまむと、なるほど、丸々としたモチ肌のタコヤキができ上がった。
 不覚にも生ツバをゴクリと飲み込む。
  ウーム、食べてみたい!
 でも、彼女は最前、言ってましたっけ。
 「どんなに素敵な方でも35歳以上の方は、ダメ。どうしても父親のイメージがダブってしまいます。ましてや、妻子持ちの相手との不倫なんて……」

 ケーキと父親を越える彼氏が現われるのはいつの日か。
 いずれにしても、中年男にとって久美子さんのタコヤキこそ、まさしく「禁断のお菓子」ではあった。



  横浜
 ケーキの「プチ・フルール」チエ−ン
               「小さな赤い靴」の巻

 横浜市西区南幸111シァル地下1階 
 
0453110657
 総ガラス張りの明るいお店。手作りケーキの種類も多く、美味しい。プチフール(5種類)15個入り。スイスのベ ルクリー社から材料を輸入、トリフを形どった手作りチ ョコレート15個入りなど贈物に最適。
 ケーキのほかに軽食のメニューが数種、ちなみにビーフ シチューは大好評。

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