編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:伊奈利夫
NO.479 2015.02.18  掲載

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NO.    黛 志芳さん

        横浜・六角橋 Wakana

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和58年11月1日発行本誌No.19  号名「柿」


   文・イラスト/畑田国男(漫画家) 写真/出口道和 



    黛 志芳
   
 (魚座B
 占い師。真珠を使って占う真珠霊感占いで注目を集めている。昭和50年から7年間、TBSテレビ「3時にあいましよう」で占いコーナー担当。ほか、テレビ出演367回などマスコミでも活躍中。昭和55年あずさ書房から『霊感術』出版。
 出身は静岡県。東京在住18年。童話、作詩も手がけ、無類の動物好き。巨体のシープドッグ2匹を“愛児”同然に寝食を共にしていたほど。


 人の目を見つめて話をする。片時も視線をそらさない。怖い。人の心を見す透すような、霊感師の目。
 犬や鳥を語る時は、永遠の童女の目。問題児を預かり、更正させたと語る時は、ぬくもりの母の目。
  一瞬、チラと見せるのが、熟女の目。母と童女とシャーマンと、おんなと。
 刻々と変わりゆく彼女の目に惑わされ続けた今回のデート。 黛志芳は、4次元の女だ。
                 ★☆
 ハラハラと、よく涙するという。夕陽が落ちる。「どうしよう。夜の帳(とばり)が迫ってくる」
 枯葉を落とす大木に近寄って、「あなた、何が悲しいの」
 花の咲く草は嫌い。「花びらが散ってゆく悲しさに耐えられないの」

 どうです。普通、面と向かってこういうお話をきかされたら、ムズがゆくなって逃げ出してしまうでしょう。
 しかし、これが志芳さんの口から出た言葉だと、事情が違ってくるのです。

 だって、彼女は本当に、夜や大木や草花と交信できるのだから……。
 あでやかな化粧にコスチューム、人をそらさぬその話術。天真爛漫。
 夜な夜な乃木坂か六本木あたりに出没しそうな恋多き女。
 志芳さんを一目見れば誰だってこう思う。

          四次元の女、黛 志芳

  それなのに、「人混みは嫌い。外出はほとんどしません」と言う。
 お弟子さんに「先生は一年中穴ぐらにいて何が楽しいのですか」と言われている。
 家では「甘えん坊のシープドッグと小桜インコが遊び相手だった」とか。
 今、黛志芳の真珠霊感占いを訪れる人の相談で、多いのは「事業、子供の非行、恋愛」の3つ。特に深刻なのが、家庭内暴力、登校拒否児童を抱えた母親たち。
 志芳さんは、相談者と共に泣き、360度の真珠を指でまさぐり、守護霊からの御達しを仰ぐ。
  一つの難問を抱え込んで、他の仕事に手がつかないこともしはしば。
 「WAKANAの先生も性格が私に似ているの。夏はケーキがダレるからって、2カ月も商売休んじゃうんですものもの」
 
 若菜先生が冷蔵庫からケーキを取り出し、運んできた。

 志芳先生は、自分が名づけたチョコレートケーキの「リラ」を、ボクは生クリームをチョコレートスポンジでくるんだ「ジャスミン」を。
 一口いただく。口の中でスポンジと生クリームがトロリと溶け合う。うん。これは本物のフレッシュ生! 強いリキュールの香りも最高のグランマニュ! 
  「この口溶けの良さ。夢の中にトロケるようなおいしさでしょう」
 そう。ケーキは素材の質がよければよい程溶けやすくなる。こちらのケーキは長持ちさせるためのショートニングなど一切使っていない生きた手作り品。アイスクリームのようにデリケートなケーキである。

  一服したところで、恋愛の占いについて伺ってみた。
 ところが志芳先生、この問題にはあまり興味をそそられない、とおっしゃった。
 「だって安直なんてすもの。『3人の男の子と付き合っているけれど、どの子と結婚すれば一番トクか』なんて、ねー」
  難しい問題に対するほど、大きな意欲を燃やす彼女にとって、若い娘の惚れた腫れたは大した問題ではないのでしょうか?
 「私、自分自身の恋愛にも、今や興味を失っています」
 昔から、愛する男性以外に触られると鳥肌が立つ、という彼女。
  しかしながら、時折みせる流し目に当方はドギマギ。正直にその感想を申し上けると、「んまァ。畑田さんもそう思う。いャーね。どうして私って誤解されやすいのかしら」
  誤解、でした?


 
実は、パーティーなどにも出席しないのは、周りの男たちから「志芳さんの流し目は艶っぽ過ぎる」と言われるから。
 それが怖い、というのである。なんというもったいない話。
 黛 志芳はWAKANAのケーキ。添加物や起泡剤など一切の不純物を混入していない、生まれたままの生ケーキ。
 とても寂しがり屋の彼女が、男に対して思わず見せてしまう甘えは、ポーズではない。男は鼻の下を伸ばして、それを媚態ととってしまう。彼女はそのことに耐えられないでいるらしい。だから男に近づかない、という。
 男と女の俗世の情は、シャーマンの研ぎ澄まされた心の鏡を曇らせてしまうというのか。かくも無垢の心をした志芳さんが、よくもまァ、ボクとのデートに応じてくださいましたねー。
 「ハイ。ですから私、仕事以外の場所て男性とお逢いする時は、魂を抜いておりますの」
 えええ!? ということは、私はお話している今のあなたは、黛 志芳のヌケガラですか?
 「ハイ。実は初めはそうでした。でも、今は………」
 志芳さんの目が真珠の輝きを見せた。

 食べかけの、ボクの「ジャスミン」がトロリと溶けた。


 


  六角橋
  手作りケーキの店Wakanaの巻
 横浜市神奈川区六角橋2272пi04549l-8691
 昭和53年オープン。新鮮な卵、本バター、純粋の生クリーム、上質チョコレート等、最高の材料を使った手作りケーキ。テイクアウトのみ。併設の「若菜お料理教室」には「お菓子専科」(月2回)もある。

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