待ち合せ場所に早く行きすぎて、長時間読むから?
「そうじゃなくて、活字を追っていると、なぜか‥…。本の紙に秘密があるんじゃないかと思うんですが」
では、どんなジャンルの本が好き?
「ノンフィクションです。ウソっぽいお話は嫌いで、山谷のドヤ街日記とか、精神病院の話とか。今は児童心理の本を探しているんですけど」
それでは、本題の、――--ケーキ
「エクレア」
どちらかというと辛党の久美子さん、ケーキは時折食べる程度だったけれど、ここ教カ月、無性にケーキを食べまくっているという。
「朝食がわりにケーキ3個なんてこともあるのよ。味覚がすっかり変わっちゃってね。でも、スポンジは嫌いなの。
シュー生地のエクレアとか、ババロア、レアチーズケーキばっかりですね」
ボクは、「ケーキはスポンジに始まり、スポンジに終わる」と思っているスポンジ党。どうしてスポンジがお嫌いなのか!
「だって、中がスカスカしてるでしよう。学生時代、<うすい、ね>って言葉が流行ってたの。ルックスはいいけど、中身のない男の子なんか、<あ、うすそう>っていう風に使うんだけど」
そのテンで言って、スポンジは<うすい>。本のように中身ビッシリじゃないとイヤだとか。
子供の時からそう思っていたらしく、デコレーションケーキなんか、上の生クリームだけ食べて、スポンジには手をつけなかった、というケシカラン話。
何というもったいないことを! 怒りたい気持ちになったけれど、ここは美貌に免じてグッとこらえ、クレソンさんのメニューを差し出す。
「お願いします。こちらのスポンジを是非とも一口お試しください」
「じゃあ、レモン・ムース」
これまで穏やかに話を進めてきたところで、彼女の言葉をつなぎあわせ、ボクはある連想を試みた。
解剖、トイレ、児童心理の本、味覚の変化、レモン・ムース、
もしや、おメデタでは?
「シーッ! 内緒、内緒」
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もう小一時間経っているのに、彼女の外観からは全くそんな雰囲気が感じられない。妊婦特有のムクミなどは全く見られず、その笑顔はテレビのブラウン管を通して見た、さわやかなものである。
久美子さん、レモン・ムースをエレガントに平らげてから、
「おいしかったわ、とても」
「ね、スポンジもいけるでしょ」
「これ10個ほど買って帰ろうかしら」
フランスで6年修業を積んできた福田シェフ自慢のシャルロットとムース、このお陰で何とか溜飲を下げることができました。コニャクはハネシーをヒタヒタに使ってある。こんなぜいたくなケーキも珍しい。それにスポンジのキメの細かさは久美子さんの肌のよう。
これからしばらく産休で仕事を離れるという久美子さん。これまでは「お嬢さん役」のワクに縛られていたけれど、なあに、2年も経てば、
――――岡江久美子
「おんな」
と言える女優に生まれ変わっていると思う。
最後に、もう一つ、
――――夢
「バク」
夢を食べる動物のバクか、ご主人様・大和田獏のバクかは、あえて問いはせぬ。
ファンの一人として、家庭の匂いなど持ち込まない岡江久美子の(カム・バク)を夢みているから、である。
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