編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:伊奈利夫
NO.476 2015.02.17  掲載

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NO.    中井 貴恵さん

      田園調布西口駅前・レピドール

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和58年5月月1日発行本誌No.16  号名「柏」
  

    文・イラスト:畑田国男



   中井貴恵さん
   
(射手座・O型)

 女優。本名は貴恵子。芸名の名付け親は映画監督・木下恵介氏。
 田園調布に生まれ育った、沿線っ子。早大文学部を出て『女王蜂』でデビュー以来、映画・テレビに大活躍。最近作『人生劇場』は彼女の大胆な演技が話題。
 5月
30日からのNHK銀河テレビ小説『やつらの戦い』に出演。NHK『連想ゲーム』に1年間レギュラーとして活躍予定。オフィス中井に所属。


 
好みもはっきりしていれば、おっしゃることもすべて直截。好き、嫌い、の二言が随所に飛び出してくる。
 「均衡」と「調和」を重んずる中庸主義。天秤座のボクは、終始「自由」と「決断」の星、射手座の彼女に翻弄されっぱなし。
 もちろん、それはとても心地よい翻弄、だったのである。
          ★
 超多忙のスケジュールを縫って、やっと貴恵さんをつかまえた。
 しかし、午後の予定もビッシリ。「40分以内で」と、制限時間つきのデートと、あいなった。
 「私、ケーキは好きじゃありません」。のっけから、はっきりしたお言葉。
 「食べるよりも、自分で作る方が好き」
 ボクも、ここ半年、洋菓子教室へ通って修業しています。ケーキ作りなら負けません。
 「私は、本を見ながらの自己流です」。ご立派。ケーキ作りは本当に難しい。
 「初めのうちは、同じ分量で作ったはずなのに、スポンジの厚さ、固さがマチマチになるんです」
 そう、そう。ボクもそう。
 「でも、凝り出したらトコトンやらないと、気が済まない性格なんです」
 ボクは、土台のスポンジを焼くよりも、上のデコレーション作業が好き。生クリームをコルネ(絞り袋)に入れて様々な文様を描くのは漫画を描くのと同じように楽しいもの。
 「私、飾りは簡単にすませます。コルネは嫌い。一切使いません」

       「はっきり美人」、中井貴恵さん

 そこへ、レピドールの名菓の数々がワゴンに乗って運ばれる。どのケーキも小振りで、シンプルなデザイン。おいしそー。

 さて、どれにしようか、と目移りがして、なかなか決まらぬ迷い菓子。そんなボクを尻目に、貴恵さん、パッと抹茶ムースを指名する。
 「私、いつもこれなんです」
 思案の末、抹茶の緑にコーディネイトさせようと、ボクは黄色も鮮やかなフルュイ・ア・ラ・パッションにようやく決定。

 「調和」の星は、やることに時間がかかっていけない。
 「私、洋菓子よりも和菓子が好き。それもツブアンは嫌い。コシアンのネリキリじゃなくちゃダメ。半ナマも嫌い」と、なかなか厳しい中井貴恵さん。
 味にうるさい彼女のお口にも、こちらの抹茶ムースは最高だとか。
 貴恵さん、和食、日本酒党だともいう。
  和服も好き。すると、すべて日本的なるものがお好きなわけ?
 「いえ。それは、食べ物の嗜好だけです」
 はっきりと釘を刺されました。
 「日本の社会、それに芸能界は好きじゃない。とにかく、小さな世界に固執して、その中で自分が小さくなるのが嫌なんです」
 偉い!
  ボクなんか、食べ物は和洋日韓印からゲテモノまでなんでもこなすエセグルメだが、仕事面ではとにかく小さな世界、それも東京にこだわってアレコレ書き連ね、そんな自分に幸福を感じているというのに。
 「いつ、どこの世界に放り出されても生きてゆける柔軟性とバイタリティ、これだけは持っていたい。だから、芸能界にはまったく固執していません。いつ女優をやめてもいいんです」
 漫画に固執する男、一口ケーキを食べる。

 パッション・フルーツのすっぱい風味、それに彼女の鋭い言葉が身にしみる。
 ここで、レピドール・大島専務の話を思い出した。
 「ケーキは世を挙げて甘味レスの時代。でも、甘くないケーキなんてナンセンスです。砂糖が味を固定して、おいしさを持続させるのですから」



  ケーキも、女優やタレントさんたちも、薄味にすっかり馴らされているボクたちだが、そんな風潮に迎合しない自信とガンコさが、「レピドール」にも、貴恵さんにもみなぎっている。
 こんな貴恵さんのこと、男性に対しても好みはきっと厳しいのだろう。訊いてみよう。

  映画「人生劇場」で共演した風間杜夫が素敵だという。
 「風間さん本人は面目な家庭人なのに、犯罪者や変質者をやらせたら天下一品。この二重人格的なところが大好きです」

 そうか。二重人格か。
 残り時間はあと5分。これまで、今日は二の線で迫っていたこのボクだが、ここで急に変質者を装ってみたら、モテるだろうか?
 やっぱり、ダメだろうな。
 最後に一つ。父親に佐田啓二を持ったことについて。
 「しょうがないでしょう。後に生まれた私がたまたま同じ世界に入っただけ。でも、そのこと自体、私、イヤじゃないです」
 「レピドール」はフランス語で「金の麦の穂」。「金」は最高級。「麦」はいうまでもなく、ケーキの主要素材。
 おいしいケーキ作りには数々の秘法がある。
 しかし、最上の素材なくして、最上のケーキは生まれない。

 田園調布に育ち、早稲田に学んだ、美と知に恵まれし中井貴恵こそ、素材は「金」。
 さて、この逸材を上手に料理するのは、監督か、製作者か、共演者か。いや、やはり「料理は自分の手で」ですか?

 「君の名は」の数寄屋橋いまはなし、「貴恵の名は」かしこにありき





   


 
田園調布

 洋菓子・喫茶「レピドール」の巻
 
 大田区田園調布32414 0337220141
  営業時間・AM900PM900(月曜定休)
  最上の素材、最上の洋酒を使った小ぶりのフランス菓子の数々。地元はもとより、遠くから買いに来る固定フアンも数多い。

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