編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:伊奈利夫
NO.475 2015.02.17  掲載

        画像はクリックし拡大してご覧ください。

NO.    鈴木かなえさん

         田園調布西口駅前・チロリアーン
   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”

   掲載記事:昭和58年3月月1日発行本誌No.15  号名「桜」


   文・イラスト:畑田国男


  鈴木かなえさん
  (さそり座・A型)
 タレント。本名は鈴木貞子。
静岡県天竜市生まれ。現在は田園調布在住。押阪 忍の
SCプロ所属。司会、ナレーション等幅広く活躍。神奈川大学英文科卒。
 ラジオ短波「集れ!医師薬大受験生」のDJを北山修と共に。趣味はオートバイでツーリング。


 
西口広場を左へ歩く。落ち着いた街並に解け込んだお店。「チロリアーン」。

 店内も田園調布らしく、シックな雰囲気。

 その空気を破るように明るいのが、鈴木かなえさん。いや、かなえちゃんと呼んだ方がピッタリくるお嬢さんである。

 「私、悪女なの。30代の男の人を4人も泣かしてきたんだから」。ドキ!

 こう言って、彼女は自分のテーマソングだという中島みゆきの「悪女」を唄い始めた。

♪ まり子の部屋へ  電話をかけて

 男と遊んでる芝居  続けてきたけれど……♪

 コーヒーをすする中年のお客さんが振りかえって見る。

そんなことにお構いなく、かなえちゃんは全曲明るく唄い通したのである。

 こんなひょうきんな悪女があるものか。
 

        かなえちゃんのシマシマは七色の虹

 

 「私の所に集まってくる男の人って、みんな暗いのよ。私だってたまには落ち込むことがあるでしょう。そんな時、『今日のかなえ″はつまらない』なんて言うんだから」

 暗い男が彼女の周りに寄ってくるのは、よく分かる。蛾や虫が灯を慕ってやってくる、本能のようなものなのだろう。
 かなえちゃんは、それほど、明るい人なのだ。

昔から、そんなに明るかったの?

 「ううん。高校までは、まともだったの。東京へ出て来て、ある女子大に入りまして、そこの良妻賢母型の教育方針に反発してね。教師と大激論しちゃったのよ」

 彼女の意見は入れられず、(そりゃそうだろう)その晩、かなえちゃんは一人酒を飲み、退学を決意した。

 こうして8カ月の浪人生活の後、神奈川大学へ再入学。大勢のボーイフレンドに囲まれて、ここに太陽の子、かなえちゃんが誕生した。「脱皮したの」、というわけである。

 現在、彼女は北山修さんと一緒にラジオのDJをしている。

 医師薬大受験生を対象にした番組だが、彼女にも大勢のファンがいる。

 ここで寄ってくるファンたちも、やはりネクラなのだそうである。

 思いつめて自殺まで考えた一ファンに、彼女はせっせと手紙を書き、勇気づけてやったこともある。

 「<血を見るのが怖いけど、どうしたらいいのでしょう>なんて相談もあるのよ」

 困ったお医者さん候補生だが、彼女に言わせると、「甘えてるのよ」の一言。

 「私、クラい人間に憧れてるの。部屋を暗くして、中島みゆき聴きながら日記つけてるんだから……」

 いや、ちょっと想像できません。

 「でしょう。みんなそう言うのよ。明るさと暗さ、暖かさと冷たさ、両面あわせた<シマシマ人間>なんだから」

 ケーキが出てきた。

 彼女は学生時代、このお店でアルバイトをしていたから、おいしいケーキをよく知っている。

 かなえちゃんは、マーブル。ボクはチロリアン・ホワイト。

 彼女、マーブルの横面を指差して、

 「ね。チョコレートスポンジと白い生クリーム、それにチョコクリームが何層にもシマシマになってるでしょ。これがいいの」

 苦味と甘さのハーモニー。これがかなえちゃんのお好みだそうだ。



 誰でも「お前はこうだ」と決めつけられるのは嫌なもの。彼女も「明るいだけのかなえじゃないぞ」と言いたいらしい。
 でも、だからといって「悪女」ってのは、飛躍しすぎじゃないのかな。

 純な男心をもて遊ぶ、みたいなそんな陰険なところがかなえちゃんには全く見られない。

 「男を泣かせてきたって言うけど、自分が泣いた恋はなかったの? これからでもいい。そうすれば、少しは憧れのネクラに近づけると思うけどね」

 「そんな相手、今んところいないもの。ね、ね。畑田さん、どう。ウハハハハ」

 そこで笑っちゃいけないよ。

 「でも、それはやめとこう。よしんば恋に落ちたとしても、泣きをみるのはボクのほう、30男、5番目の犠牲者になるのがオチさ」

 さて ボクのケーキは、イチゴとビワを生クリームとスポンジで包み、上にホワイト・チョコレー卜が乗ったもの。甘味の薄いさわやかなケーキ。

 「かなえちゃんの魅力は、シマシマのマーブルよりもこのチロリアン・ホワイトの味。どう、ひと口、食べてみませんか。悪女ブリッ子はもうやめて」

 偉そうなことを言っているところへ彼女をよく知るチロリアーンの社長、山本さん登場。

 社長の<かなえ評>。

「何回も挫折があったろうに、それを全く感じさせない。女一人でがんばっている。それでも、ホラ、ポッと出のお嬢ちゃんに見せるとこなんざー、たいしたもんですよ」

 ドキ!

 お店もまばらな夜の田園調布は、思いのほかに暗い。月も隠れる花曇り。

 ♪悪女になるなら 月夜はおよしよ 
   素直になりすぎる……♪

 「一杯、飲んでいきましょうか」と、彼女。

 「いや、今度、月の明るい晩にでも」


 
田園調布

 洋菓子・喫茶「チロリアーン」の巻

大田区田園調布3252   03-37212345
昭和3212月オーブン。洋画家・岡慶之助、作家・石坂洋次郎、他多数地元のフアンかいる。長嶋茂雄はカスターシュー、石原慎太郎はショ−トケーキをご愛食。

「とうよこ沿線」TOPに戻る 次ページへ
「目次」に戻る