「ワッ、畑田さんのおいしそー。ね、ひと一口いい?」
「結構です。そのかわリボクも」とお互いのケーキをつつきあう睦まじさは、とても初対面とは思えない。
「お友達とケーキを食べる時、私いつもみんなのを一口づつ戴くの」
人呼んで<恐怖の一口女>。
「一口食べれば全部分っちゃう」
こと男性に関しても同じだそうで、第一印象で相手がどんな男か見抜いてしまうという。
そうですかー。で、ボクの場合はいかがなものでありましょうか?
「バッチリですよ。ホント一に」
ご覧のように丸顔のボク。馬のイメージとは程遠いと思っていたのに有難いお言葉。
2本目の白ワイン、ラインハルト・アウスレーゼの酔いも手伝い、ホホはさらに赤くなる。
いかんいかん、話をケーキに戻しましょう。
隆子さん、ケーキはシュークリームやパイ生地など、皮のあるものがお好みで、「スポンジのブヨブヨより、皮のツヤツヤがいいの」と、どこまでも馬のイメージから離れられない。
彼女の「馬」志向は、女優・松阪降子の自己投影ではないか。きびきびと、はつらつと。彼女を画面で見ていただければ、ボクのこの意見、十分に納得してもらえると思う。
テレビ、ラジオ、舞台の忙しい合い間をぬって今、彼女はジャズダンスに凝っている。
踊る時、馬の動きを意識する?
「ああ、言われてみるとそうかもね」
|
|
ローレンス・オリビエはシェークスピアの「オセロ」を演ずる時、動物園に通って黒豹の動きから猛々しさを学んだという。
降子さんは馬を師匠にするといいかもしれない。そうすれば近い将来この世界で、天馬空を行くが如き活躍を見せてくれるだろう。「これから日生劇場へ『ハムレット』を観にゆきます」と立ち上がる。
ここで初めて、皮のストーンウォッシュ・パンツとブーツ姿に気がついた。
キマっている。後姿に見とれていては、見事な脚に蹴られてしまいそうである。
しかしまた、蹴られてもみたいその脚線美。
「蹴られるべきか、蹴られざるべきか、それが問題だ」
などと逡巡している場合ではない。
ボクはあわてて彼女の横へ並び、この明るいオフェリアをエスコートして店を出た。
大倉山は夕映えでまっ赤に染っていた。
|