日本のケーキのおいしさを知ったのはここ2、3年。たしかに、最近の日本のケーキは甘さが薄く、昧がよくなってきた。
「洋菓子といっても、かなり日本人向けにアレンジしてありますね」
ここでブルーベリー・パイを一口、
「おいしいわ」とニッコリ。
ボクのヌース・シュニッテンも小振りでココナッツ、生クリーム、スポンジの調和が実にさわやか。
日本のケーキが大人を対象にして、甘味レスの時代に入ったことはとてもよろこばしいことである。
大体、「甘みは味覚の中で一番劣った感覚」とする識者が多く、甘党のボクは少々肩身の狭い思いをしてきた。
食生活の貧しい未開地の種族では、「甘い」と「おいしい」の言葉が同じであるという話も聞いている。
そういえば、英語の SWEETにも両方の意味があったっけ。
とにかくここ「銀杏」のケーキが大人のお客様に人気があるのも「甘味」を抑えて素材のうまさを追求しているからだろう。
大学時代、孝江さんは演劇を志し、文学座の研究所に入ったが、感ずるところあって、あっさりサラリーマン・アナへ転進。
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「物を書くよりおしゃべりのほうが好き。演劇もテレビの仕事も終わればサッと消えてくれるでしょ。その刹那的なところが私の性に合っているみたい」
午後の仕事が待っている、と席を立つ彼女。
「あの−、今度はいつ、どこでデートしましょうか」
「月曜から金曜まで、ウィークデイならいつでもいいわ。テレビの前で待っていて。『3時にあいましょう』ね」
甘さを殺した孝江さんのお言葉。サッサと消えるその刹那さよ。
一人で見つめる窓の外、銀杏の葉っぱがハラリと散った。
今はもう秋。
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