編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:伊奈利夫
NO.473 2015.02.16  掲載

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NO   三雲 孝江さん

  横浜・山下町 ザ・ホテル・ヨコハマ/ティーラウンジ

   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和57年10月月1日発行本誌No.13  号名「櫟」


   文・イラスト/畑田国男



TBSアナウンサー。「3時にあいましょう」などでおなじみの三雲さんは、妙蓮寺在住。
 父親が産経新聞特派員時代、彼女は小学生のころ英国や欧米で過ごし英語とフランス語を駆使する、国際化時代貴重な“トライリンガル”女性。

 本誌4号「わが母校・捜真女学校」、10号「酷勢調査」で登場、本誌でもおなじみ。


 桜木町からタクシーで海岸通りを走る。銀杏の葉が夏の終りの陽をうけてキラキラと光っている。
 山下公園の前、ザ・ホテル・ヨコハマで降りると潮の香り。
 急いで1階のティーラウンジ「銀杏」へ飛び込む。
 孝江さんはすでに席についていた。
  女学生のような微笑みでボクを迎えてくれる。
  コーヒーとケーキを注文する2人。
  彼女はブルーベリー・パイ、ボクはヌース・シュニッテン。
 「ケーキはよく召しあがりますか」
 「じつは私、辛党だったんですよ。子供の頃、バタークリームの悪甘いケーキにこりまして、以来全然ダメ……。学生時代もほとんど食べませんでした」
 少女期5年間をヨーロッパでおくり、渡米経験も何度かある彼女。そんなにアチラのケーキは甘いの?
 「ヨーロッパのもコッテリしてましたけれど、特にアメリカのケーキはひどいですね。サイズもジャンボなら甘味もドギツい。人が食べているのを見ているだけで気持ちが悪くなってしまう」
 

      また、「3時にあいましょう」

 日本のケーキのおいしさを知ったのはここ2、3年。たしかに、最近の日本のケーキは甘さが薄く、昧がよくなってきた。

 「洋菓子といっても、かなり日本人向けにアレンジしてありますね」
 ここでブルーベリー・パイを一口、
 「おいしいわ」とニッコリ。
 ボクのヌース・シュニッテンも小振りでココナッツ、生クリーム、スポンジの調和が実にさわやか。
 日本のケーキが大人を対象にして、甘味レスの時代に入ったことはとてもよろこばしいことである。
 大体、「甘みは味覚の中で一番劣った感覚」とする識者が多く、甘党のボクは少々肩身の狭い思いをしてきた。
  食生活の貧しい未開地の種族では、「甘い」と「おいしい」の言葉が同じであるという話も聞いている。
 そういえば、英語の SWEETにも両方の意味があったっけ。
  とにかくここ「銀杏」のケーキが大人のお客様に人気があるのも「甘味」を抑えて素材のうまさを追求しているからだろう。
 大学時代、孝江さんは演劇を志し、文学座の研究所に入ったが、感ずるところあって、あっさりサラリーマン・アナへ転進。



  「物を書くよりおしゃべりのほうが好き。演劇もテレビの仕事も終わればサッと消えてくれるでしょ。その刹那的なところが私の性に合っているみたい」
 午後の仕事が待っている、と席を立つ彼女。
 「あの−、今度はいつ、どこでデートしましょうか」
 「月曜から金曜まで、ウィークデイならいつでもいいわ。テレビの前で待っていて。『3時にあいましょう』ね」
 甘さを殺した孝江さんのお言葉。サッサと消えるその刹那さよ。
  一人で見つめる窓の外、銀杏の葉っぱがハラリと散った。
 今はもう秋。

              
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