編集:岩田忠利/編集支援:阿部匡宏/ロゴ:配野美矢子
NO.472 2015.02.14  掲載
 えんせん族
 
 石川次郎さん(26)


   沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:昭和58年3月月1日発行本誌No.15  号名「桜」


    文/山火典子(綱島)  写真/森 邦夫(日吉)

難病と二人三脚

 「自殺を防ぐ会」
      呼びかけ人


     石川 次郎さん(26

       (横浜市鶴見区駒岡)

 


  日本では年間2万人以上の人が自殺で死亡するという。これは交通事故死者数の2倍にもなる。また、自殺の原因の半分は病気を苦にしたものだという。

  今回登場いただいた石川次郎さんは、鶴見区に住んでいる26歳の好青年。一見健常者に見えるが、じつは長いことネフローゼに苦しんで現在も入退院を繰り返している。

 病気で寝付くくらいなら死んだほうがまし、というほど身体に自信があった彼が、突然ネフローゼと診断されたのは大学1年の時。病状は意外に進んでいて、以来、大学生活も就職も結婚も自分のものではなくなった。朝がくるのがこわかった。

  石川さんは絶望のあまり自殺を図ったが、死に切れなかったという。そして、死ぬこともできないのなら、なんとか、この病気を逆に利用して生きてみる方法はないかと考えて、広報誌に「病人の会」、新聞に「自殺を防ぐ会」を呼びかけたところ、驚くほどの反応があった。
 
  石川さんは自分の体験からこう話す。
 「病気が重くなると、健常者は無関係の人になるのです。被害者意識、劣等感に苦しみ、やがてノイローゼへと、どこまでも落ち込んでいってしまう。そんな時、健常者が励ましたり叱ったりすると、ああやっぱりダメだ、と余計に落ち込んでしまう。
 ところが、そんな時に病人が話しかけると、心を開き、気持ちを変えてくれることがある。ただ黙って話を聞いてもらうだけでも、ずいぶん救われるのです」。


 

 さらに「ふだんいい格好をしていても、苦境の時はホンネで付き合えるから、真の友となれるのです」

 “自殺を防ぐ会”を呼びかけたのは、そうすることによって今も自分の中にある自殺願望を封じ込めたいからだという。
 「あなたは強いのですね」と私が言うと、
  「いえいえ、弱いからこそ、こうやって自分で自分を縛るのです。呼びかけ人が自殺するわけにはいきませんからね……」

 ネフローゼに効くステロイドホルモン剤は、副作用も大きく、量を減らせば病気が重くなり、イタチごっこ。完治の見込みのない現在、石川さんの絶望は深いと思うが、本人は意外と明るい。
 「以前、自殺を思いとどまらせた人が、今は僕を励ましてくれるのですよ。しっかりしろって……」


        [
りれきしょ]


 本名、横須賀勝也。ペンネームは石川達三と新田次郎からとった。鶴見区駒岡生まれ、26歳。
 市立旭小、明治学院中学・高校、同大学中退。現在アパートの管理をしている。趣味はギター(トランペットは力がついていけなくなった)。
 A
型。自分の性格は「引っ込みじあんの目立ちたがり屋」。憧れる人物像はニヒルな人、たとえば田村正和、近藤正臣など。



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